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日蓮大聖人・池田大作

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翼の下  

小説「人間革命」7-8巻 (池田大作全集第147巻)

前後
30  六月二十八日、教学部の任用試験が行われた。これは第二期教学部員候補生に対する筆記試験である。受験者九十一人のうち、合格者は四十一人で、さらに第二次の口頭試問と講義実習が、七月十二日に行われた。そして、最終の合格者は、二十一人となっている。なかなかの厳選である。
 合格者のなかから、二人の助教授、一人の講師が抜擢された。
 学会の世帯数の増加にともない、教学部の陣容も着々と整えられてはいたが、その比率は、とうてい世帯数の増加に追いつけなかった。教学は、速成できなかったからである。
 このような前進する機運に乗って、六月三十日、東京・神田の教育会館で本部幹部会が開催された。
 六月度の入会世帯は、三千九百三十一千と、四千世帯に近づいている。
 一月から六月までの、上半期の入会世帯を合計してみると、二万八百九十一世帯という数字である。わずか半年のこの期間に、学会世帯数は、まさに倍増していたのである。
 一九五三年(昭和二十八年)度の目標五万世帯は、これで下半期に三万世帯を残すこことなった。月々の増加率を考えるならば、この目標は堅実に達成されるにちがいないと幹部たちは安堵した。そして、戸田城聖の目標設定の確かさに、彼らは、あらためて驚かざるを得なかったのである。
 その幹部たちの偉大さは、「師と決めた戸田先生の一言を、絶対に虚妄にするな!」と、自らに言い聞かせながら、勇敢に戦ったことにあるといってよい。そこに躍進と勝利があった。希望が湧いた。
 純粋で一途な彼らの戦いは、輝く未聞の成果を示していったのである。
 戸田は、この宗教革命運動は、彼一人の力によってできるものではなく、多くの弟子が、彼と同じ決意で、共に戦わねばならぬことを知っていた。そのため、彼は、幹部会の席上、幹部としての立場がいかにあるべきかを説いた。
 「組長、班長、地区部長、支部長諸君の『長』ということについて、私には意見があるんです。
 仏法に『人法一箇』ということがあるが、広く社会に当てはめても、人法がそろわなければ大問題です。つまり、『長』にも『人法一箇』がある。長たるものは資格が必要である。長という立場は、『法』であり、同時に、それに見合った力がなければならない。この力が、『人』です。
 地区部長、支部長だからといって、赤の他人の学会員が、自分の思うように働くわけがない。ここに、『長』としての悩みがあると思います。
 『長』だからといって、絶対に威張ってはいけない。仏の慈悲を胸に秘め、自分の子を愛するごとく、情熱を込めて指導しなさい。ただ、『長』と名がついているだけで、人に尊敬される資格はない。
 もし、尊敬されるとしたら、それは御本尊の功徳であり、もったいないことであります。
 自分の姿をよく見つめ、『長』の立場にある人は、喜んで、真剣に仏道修行に励みなさい。必ず、それだけの功徳がある。
 私が、会長として、こうして皆さんと共に立つのは、一切の人を幸福にしたいためであり、これが私の唯一の願いなのであります」
 彼は、組織の拡大にともない、それが官僚化することを早くも警戒して、妙法の組織は、信心を根幹にした「人」の成長がなければ、崩壊してしまうことを教えたのである。
31  当時、国内は、一九五二年(昭和二十七年)四月二十八日の講和条約の発効から一年を経過していた。独立国とはなったものの、米軍基地は、全国に散在していた。五三年(同二十八年)六月二十五日には、東京で軍事基地反対の大会が開催され、その他の地でも、激しい基地反対闘争が起こっていた。
 玄界灘を越えた韓・朝鮮半島では、南北の対立で戦闘が繰り返されていたが、四月二十六日には休戦会談が再開され、六月八日になって捕虜交換協定が調印されている。そして、七月二十七日に至って、初めて朝鮮休戦協定の調印をみた。
 朝鮮戦争(韓国戦争)の勃発したのは、五〇年(同二十五年)六月二十五日である。それから一年後の五一年(同二十六年)七月十日から休戦会談が始まったものの、その後も戦闘はやまず、さらに二年を経過して、やっと休戦協定締結となったのである。
 朝鮮戦争は、約三年の長きにわたり、狭い半島で近代戦の殺戮が続いたわけである。しかも、それは、南北統一の悲願を無視した国際戦争であった。朝鮮戦争は、二重の意味において、半島の民衆を苦しめていたのである。
 戸田城聖は、これらの国内、国外の情勢を思うたびに、広宣流布の急務を痛感していた。しかし、彼は、確固たる民衆救済の軌道を、一喜一憂することなく、世間の気づかぬ深い淵底で着実に切り開いていたのだ。そして、精いっぱい広げた翼の下で、多くの弟子たちの育成に余念がなかった。

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