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日蓮大聖人・池田大作

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4 「生涯教育」と「成人教育」  

「新しき人類を」「学は光」V・A・サドーヴニチィ(池田大作全集第113巻)

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3  理論一辺倒から脱却するロシアの通信教育
 サドーヴニチィ 私の方からは、主に通信教育についてわが国の事情を中心にお話ししたいと思います。
 モスクワ大学をはじめロシアの諸大学にとって、通信教育制度は大学の重要な要素となっています。わが国は、働きながら学び続けることを前提として通信教育の充実を図ってきましたので、豊かな経験を蓄えてきております。もちろん、わが国の実状にそって発展した制度ですから、そのまま、たとえば日本にあてはめるというわけにはいかないでしょう。
 わが国で通信教育制度が広く構築された背景には、生産現場を離れることなく学べる機会を作るという考え方が存在していました。したがって、通信教育がそもそも対象としたのは職業人ですから、通教生は、自分の仕事の専門分野に近い学問を選択して受講するのが一般的です。たとえば、職工として働いている人がエンジニアの資格を取るために通信教育を受ける、という具合です。
 モスクワ大学の通信教育も基本的にはこれに準じていますが、主に教師の養成、再教育を中心としたカリキュラムを提供しています。
 池田 なるほど。通信教育のカリキュラムでは、どういう点に力を入れてこられたのでしょうか。
 サドーヴニチィ 通信教育の意義は、成人教育にとって重要な価値を持っていると考えます。
 理論を中心に展開される大学の授業は、学生に基礎的教養を与えつつ、基礎研究を通して学問の仕方と教え方を教授する仕組みになっています。
 それに対して、通信教育においては、対象が職場で実際に職業的経験を積んでいる人たちなので、教授法をはじめ教育内容、教材、課題等、かなり柔軟に工夫を凝らすことが必要になります。その意味で、大学教育が、理論一辺倒を抜け出し、現実社会の要請に可能な限り近づくことを要求されます。大学にとっても貴重な空間になっていると思っています。
 池田 そこに重要な意義があることがわかります。
4  二つの世界大戦と内戦が及ぼした影響
 サドーヴニチィ それから、わが国の高齢者、年金生活者の方々に生涯教育、成人教育の機会を提供するといった課題については、正直申し上げて、これまでほとんど直面したことがありません。少なくとも、個々人の特別なケースを除けば、社会的現象としてそのような必要性が差し迫ったものとなったことがなかったからでしょう。
 ご存じのように、20世紀のロシアは、二つの世界大戦で辛酸をなめ、それと並行して1918年から1922年までの内戦を経験し、多くの人命を失いました。そのため、白髪のころまで人生を永らえることが出来た人はさほど多くはないのです。
 池田 痛ましい歴史です。そうした20世紀の歴史の教訓は、絶対に忘れてはなりません。
 サドーヴニチィ また、別の側面から見ると、20世紀のロシアは、工業化の道を驀進し、社会制度を整備し、科学技術の躍進を遂げた、建設に次ぐ建設の時代でもありました。ですから、私たちの両親、祖父母の世代は、高齢になっても仕事をしつづけていました。ひとつには、給料が唯一の収入源だったからということもありますが、それ以上に、国の労働力が常に不足していたために、年をとっても働けるうちは働きつづけたのです。そんなわけで、生涯働くことがあたりまえだったこれまでの世代にとっては、定年してから再び大学で勉強をということは考えられなかったと思うのです。
 さらに、ここ20年から50年ぐらい先までの人口予測を見る限り、ロシアにとっては今後もしばらくの間は、高齢者のために大学の役割を考えるという時代はまだ訪れないと推測されます。
 池田 成人教育についても、お国の事情が、よくわかりました。

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