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日蓮大聖人・池田大作

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「美の殿堂」富士美術館 文化の勝利が開く 平和の大道

2003.11.19 随筆 新・人間革命6 (池田大作全集第134巻)

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3  思えば、二十年前(一九八三年)、東京富士美術館の出発を飾ったのは「近世フランス絵画展」である。
 ドラクロワの圧巻の大作「ミソロンギの廃墟にたつギリシャ」(ボルドー美術館蔵)など、数々の秘蔵の名品の展観は、私の尊敬する親友ルネ・ユイグ氏の支援なくしてはでき得なかった。
 ナチズムの魔手に抵抗し、ルーブル美術館の至宝を守り抜いた文化の戦士が、ユイグ氏である。その不屈の魂を、私はいつも胸に刻んできた。
 一九九三年の二月、私は、南米のコロンビア共和国を初訪問した。
 東京宮士美術館のコレクションによる「日本美術の名宝」展の開催などのためである。
 その直前、アメリカのマイアミに滞在していた私に、コロンビアの大統領府から、緊急の連絡が届いた。
 「池田会長は、わが国に本当に来てくださいますか?」
 この直前、麻薬組織による爆弾テロで、多くの犠牲者が出たばかりであった。
 コロンビアで予定されていた、ある国際会議も中止された。出国する報道関係者も多かった。
 私の訪問も見合わせるようにと、周囲からは止められた。しかし、私には、断じて果たさねばならぬ信義があった。それは、この三年前、東京富士美術館主催の「コロンビア大黄金展」に尽力してくださった大恩である。
 この折、至高の輝きをもった黄金細工や、世界最大級のエメラルドの結晶原石など、国の宝を、多数、惜しみなく貸し出してくださった。
 答礼の意味も込めた日本美術展は、コロンビアの方々への友情の証であった。
 私は、大統領府に伝えた。
 「私のことなら、いっさい心配はいりません。予定通り訪問させていただきます。私は、最も勇敢なるコロンビア国民の一人として、行動してまいります!」
 訪問した私たちを、ガビリア大統領夫妻をはじめ、コロンビアの方々は、心から歓迎してくださった。
 友人が一番大変な時に応えてこそ、真の友情である。それがまた、真の文化だろう。
4  ロシアの大文豪トルストイは喝破した。
 「芸術が全人民の芸術であることをやめて、少数の金持階級のための芸術となるやいなや、芸術は欠くことのできない、重要な事業であることをやめ、くだらない娯楽に堕してしまう」(小沼文彦訳編『トルストイの言葉』彌生書房)
 私は三十年前、富士美術館開館の折に語った。
 「人間による、人間のための、真の文化創造の責任の一端を担う『民衆の側に立った美術館』に!」と。
 芸術は、万人に広々と開かれなければならない。牧口先生は「美」の価値を明言されたが、それは、幸福を創造する、すべての人間の手にあるものであるからだ。
 このために、私は富士美術館を創立した。民音などの文化機関をつくった。
 そもそも、美術館の誕生それ自体が、特権階級のものであった芸術品を、万人が楽しめるようにした、西洋の民主主義の闘争の結晶である。
 万人に芸術を開いていく!
 これは、東京と静岡の宮士美術館の使命である。
 文化の勝利の道は、あらゆる破壊の蛮行を押しとどめ、人類の心を平和へ、さらに平和へと昇華させゆく、精神の闘争であるからだ。
 ハーバード大学に学び、仏教に深く傾倒した、二十世紀の大詩人T・S・エリオットは論じている。
 「広く一般に受け容れられている誤りは、文化というものが宗教なくして保存され、伸張され、発展せられることが可能であるという考えであります」
 透徹した知性は、人類の新しき文化の大地となりゆく普遍的な宗教を求めてきた。それに応えゆくのが、我ら創価の壮大な文化運動である。
 わが芸術部の勇敢なる同志の活躍も、光り輝いている。
 私は、深い感謝を込めて、ドイツの詩人シラーの詩「芸術家」の一節を贈りたい。
 「人間の尊厳は、きみたちの手にゆだねられている。
 それを守れ!」
 「きみたちと共にそれは高まるだろう!」(内藤克彦『シラー』清水書院)

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