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第38回「SGIの日」記念提言 「2030年へ 平和と共生の大潮流」

2013.1.26 「SGIの日」記念提言(池田大作全集未収録分)

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27  胸襟を開いた対話を粘り強く
 そこで、現在の状況を乗り越えるために、平和友好条約の2つの誓約の堅持を再確認した上で、“これ以上の事態の悪化を招かないこと”を目的にしたハイレベル対話の場を早急に設けることを求めたい。
 その場でまず、「緊張を高める行為の凍結」についての合意を図り、その後、対話を継続していく中で、今回の対立に至った経緯を再検証し、互いの行動が相手側にどう映り、どんな反応を起こしたのかを冷静に分析しながら、今後の危機回避のためのルールづくりに取り組んでいくべきではないでしょうか。
 もちろん、対話の過程で激しい意見の応酬は避けられないと思います。しかし、それを覚悟の上で向き合わなければ、両国の関係回復はおろか、アジアの安定、そして世界の平和は遠ざかるばかりです。
 思い返せば、冷戦終結まもない頃、ソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領にお会いした時(1990年7月)、私は開口一番、「きょうは、大統領と“けんか”をしにきました。火花を散らしながら、何でも率直に語り合いましょう。人類のため、日ソのために!」と切り出しました。
 このような言葉の表現をあえて行ったのは、日ソ関係が不透明な中、“儀礼的な会見に終わらせず、本音で語り合いたい”との思いを伝えたかったからに他なりません。
 状況が厳しければ厳しいほど、胸襟を開いて話し合うことが大切ではないでしょうか。平和共存を目指すという大前提に立った、真摯な意見の火花散る対話は、互いの主張の奧にある「相手がどのようなことを懸念し、何を最も重視しているのか」という心情を浮き彫りにする上で欠かせないプロセスです。
 私はそのことを踏まえて日中首脳会談の定期開催の制度化を呼びかけたい。
 今月、フランスとドイツが「エリゼ条約」を調印して50周年を迎えました。
 両国の間には、何度も戦火を交えた歴史がありましたが、首脳会談を年2回、外務・国防・教育の閣僚の会合を年4回行うことなどを定めた同条約によって、関係の緊密化が大きく前進しました。
 日本と中国も、かつてない難局に直面した今だからこそ同様の制度を設けて、どんな状況下でも両国の首脳が顔を合わせて話し合える環境づくりをしておくべきだと思うのです。
 そして、まずは2015年に向けて、「平和共存」と「人類益のための行動の連帯」を基軸にした新しいパートナーシップ関係を構築することを望みたい。
 具体的な構想の一つとして、例えば、日中両国が共同で主導する形で「東アジア環境協力機構」の設立を目指していってはどうでしょうか。
 環境の改善は双方にとって「共通のプラス」となるものであり、私はその機構の活動を通して、日中の青年たちが一緒に行動できる機会を積極的に設けながら、東アジア地域の平和と安定はもとより、「持続可能な地球社会」の創出のために、両国が共に貢献する流れをつくり出すべきだと訴えたいのです。
 私は45年前(1968年9月)に行った国交正常化提言で、「日本の青年も、中国の青年もともに手を取り合い、明るい世界の建設に笑みを交わしながら働いていけるようでなくてはならない」と呼びかけましたが、その礎となるものは、これまでの交流を通し、さまざまな形で育まれてきたのではないでしょうか。
 今後の焦点は、青年交流をさらに活発に進めつつ、これまで育まれてきた友好の礎を、いかに具体的な協力へと発展させていくかにあると思います。
 そのためにも、中長期的な観点に立って、両国が互いに協力できる分野を一つまた一つと開拓し、整備していくことが重要であり、こうした挑戦の積み重ねの中で、日中友好の絆は世々代々と受け継がれ、崩れないものとなっていくと、私は確信するのです。
28  牧口初代会長が洞察した社会観
 以上、2030年に向けたビジョンと行動目標について論じてきましたが、平和と共生の地球社会の建設を進める上で欠かせないのが民衆の連帯です。
 創価学会の牧口常三郎初代会長は大著『創価教育学体系』で、なぜ一部の例外を除いて、より良い社会を目指して立ち上がった人々の多くが挫折を余儀なくされてしまうのか、その背景について、次のように考察していました。
 「善人は古往今来必ず強大なる迫害を受けるが、之れを他の善人共は内心には同情を寄するものの何等の実力がないとして傍観するが故に善人は負けることになる」と。
 つまり、善人たちが迫害を受けていることに同情はしても、自分には何も力がなく彼らを支えることはできないと考え、最終的に傍観してしまう人々は、生き方の底流に「単なる自己生存」の意識しかないため、「社会の原素とはなるが結合力とはなれず、分解の防禦力ともなり得ぬ」と、問題の所在を明らかにしたのです(『牧口常三郎全集第6巻』第三文明社、現代表記に改めた)。
 この悲劇の流転を断つために、牧口初代会長は戸田第2代会長と創価学会を創立し、「単なる自己生存」ではなく「自他共の生命の尊厳」を求めて行動する民衆の力強い連帯の構築に立ち上がりました。
 現在、その民衆の連帯は192カ国・地域に広がっています。
 「持続可能な開発目標」の推進という国際社会の協力において大きな節目となる2030年は、創価学会の創立100周年にもあたります。
 私どもSGIは、この2030年に向けて、平和と共生の地球社会の建設というビジョンを共有する人々や団体と力を合わせながら、グローバルな民衆の連帯を幾重にも広げていきたいと思います。
 2013.1.26  創価学会インターナショナル会長 池田大作
29  語句の解説
 注1 ミレニアム開発目標
 2000年9月に採択された国連ミレニアム宣言等をもとにまとめられた8分野21項目にわたる国際目標。昨年までの段階で、極度の貧困、飲料水、スラム居住者の生活に関しては達成をみたが、乳幼児死亡率の削減や妊産婦の健康改善など、他の全ての項目を2015年までに達成するにはさらなる努力が必要となっている。
 注2 四門出遊
 釈尊が王子の頃、遊園に赴くために外出した時、人々の姿を見て人間に生老病死の四苦があることを知った出来事のこと。「修行本起経巻下」には、釈尊が王宮の東門、南門、西門から出た時に、老いや病気に苦しむ人々や死者の姿を見て、最後に北門から出た時に出家者の姿を見る中で、自らも出家を願うようになった、との話が記されている。
 注3 人権教育および研修に関する国連宣言
 人権教育の国際基準を国連として初めて定めたもので、2011年12月に国連総会で全会一致で採択された。国家があらゆる適切な手段を通して、人権教育・研修の権利の十分な実現を図る義務があることや、NGOを含む市民社会の役割の重要性などが謳われている。
 注4 プラハ演説
 2009年4月、チェコ共和国の首都プラハでアメリカのオバマ大統領が行った演説。「核兵器を持つ国として、そして唯一核兵器を使用した核保有国として、アメリカには行動する道徳的責任がある」と表明し、「核兵器のない世界」に向けての共同行動を各国に呼びかけた。核保有国のリーダーが道徳的責任に言及した発言として注目を集めた。
 注5 ゴルディオスの結び目
 紀元前333年、東方遠征の途中で古代フリギアの都を占領したアレクサンドロス大王は、「ゴルディオス王が結んだ複雑な縄を解いた者は、アジアの支配者となる」との予言を耳にし、その縄を剣で両断した。この故事に由来し、転じて「至難の問題」を意味する。
 注6 持続可能な開発のための教育の10年
 一人一人の人間が、世界の人々や将来世代、また環境との関係性の中で生きていることを認識し、行動を変革するための教育を推進する国連の枠組み。2002年の国連総会で決議され、2005年からスタートした。最終年となる来年には、10年間の取り組みを総括する世界会議が日本で行われる予定となっている。

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