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第34回「SGIの日」記念提言 「人道的競争へ 新たな潮流」

2009.1.26 「SGIの日」記念提言(池田大作全集未収録分)

前後
33  トインビー博士が注視したもの
 そうした私の対話の挑戦に期待を寄せてくださっていたのが、歴史家のトインビー博士でした。
 100年、1000年の単位で人類史の興亡を俯瞰し、「挑戦と応戦」という歴史観を導き出した博士が、新たな歴史を開く原動力として注目していたのも、「人間性」という共通の大地に根ざした対話の持つ可能性だったのです。
 博士は半世紀前に日本で行った講演で、人間は歴史の中でどこまで自由でありうるかとのテーマに論及したことがありました。
 そこで博士は、人間の歴史には何らかの法則性や反復性といったパターンを見いだすことができ、自らもその概念を800年もの周期をもつ文明興亡の循環にまで広げてきたが、その半面、「まったくパターンのない人間的事象がたしかにあるものと本当に信じている」と述べ、こう結論されたのです。
 「人間的事象のうちでパターンが事実存在しないと思われるのは、人格と人格のあいだの邂逅接触の分野である。この邂逅接触のなかから、真に新らしい創造といったなにものかが発生するのだと思う」(松本重治編訳『歴史の教訓』岩波書店)と。
 冒頭で論じてきたように、特定のイデオロギーや民族や宗教といった枠にとらわれて「抽象化の精神」の罠にからめとられてしまった時、人間は“時流”という歴史の浅瀬で立ち往生し、そこから一歩も前に進めなくなってしまうのが常であります。
 そうではなく、互いの表面に無造作に付けられたラベルを取り払って、一個の人格として向き合い、対話という精神の丁々発止を重ねていってこそ、トインビー博士の言う窮極において歴史を突き動かす「水底のゆるやかな動き」(深瀬基寛訳『試練に立つ文明』社会思想社)を、ともに生み出すことができる――。
 私はその信念で、人間を隔てる一切の垣根を乗り越え、ある時は敵対し合う国を往復し、ある時は対話の回路のない国々や地域を結ぶ一本の線となりながら、世界のリーダーや識者の方々との対話を進めてきました。その結晶ともいうべき対談集は50点を超え、現在準備中のものを含めると約70点に及びます。
34  人間触発の大地を広げゆく誇り
 振り返れば、創価学会は1930年という危機の時代の最中に誕生し、SGIもまた1975年という危機の時代に発足しました。
 以来、私どもは、牧口初代会長の「人道的競争」のビジョンと、「地球上から“悲惨”の二字をなくしたい」との戸田第2代会長の熱願を旗印に、国連支援に一貫して取り組むとともに、一人一人が良き市民として、草の根レベルで「平和の文化」の裾野を広げる対話の実践を地道に続けてきました。
 そして今、戸田第2代会長が私との語らいの中で、「やがて創価学会は壮大なる『人間』触発の大地となる」と展望されていた通り、人間主義で結ばれた民衆の善なる連帯は、世界192カ国・地域に大きく広がるまでになりました。
 その誇りと使命を胸に、明年の学会創立80周年とSGI発足35周年を目指し、「対話」の力でグローバルな民衆の連帯を築きながら、「平和と共生の世紀」への道をどこまでも開いていきたいと思います。
35  語句の解説
 注1 メドゥサ
 ギリシア神話に出てくる3人姉妹の怪物ゴルゴンの1人。頭には髪のかわりに蛇が生えるという醜怪な容貌で、目には人間を石にしてしまう力があった。英雄ペルセウスはメドゥサを見ないようにするため、磨いた盾にその姿を映しながら近づき、首をはねた。
 注2 プロレタリア国際主義
 プロレタリアート(労働者階級)の利害は国境を超えて一致し、国際的に団結しなければならないという思想。しかしソ連が、1968年のチェコスロバキア侵攻や79年のアフガニスタン侵攻を、その思想の名のもとに正当化して理念的に失墜し、その後、冷戦構造の崩壊で体制的にも終焉した。
 注3 山上の垂訓
 新約聖書「マタイによる福音書」の第5章から第7章に記されたキリストの教え。「右の頬を打つような者には、左の頬も向けなさい」「自分の敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい」「自分にしてもらいたいことは、ほかの人にもそのようにしなさい」などの教えが説かれている。
 注4 ドルショック
 1971年8月、アメリカのニクソン大統領がドルの金兌換の停止を宣言したこと。ベトナム戦争による財政悪化の解決策として、輸入課徴金の実施などを内容とするドル防衛を図った結果、世界経済に衝撃的な影響を与えた。その後、為替相場は「変動相場制」に移行することになった。
 注5 京都議定書
 97年12月に京都で行われた「気候変動枠組条約」第3回締約国会議で採択された議定書。第1約束期間にあたる2008年から2012年までに締約国が90年比で温室効果ガスの排出量の5.2%を削減することを目標とし、各国ごとに拘束力のある数値が示された。
 注6 核使用に関する勧告的意見
 94年12月の国連総会の決議を受けて、96年7月に国際司法裁判所が示した勧告的意見。「核兵器の使用と威嚇は、国際法や人道に関する諸原則、法規に一般的に反する」と指摘するとともに、NPT第6条が定める「核軍縮への誠実な交渉」には結果に達する義務も含むとの解釈を示した。

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