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日蓮大聖人・池田大作

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第二十章 最近の世界の動きに関して――…  

「太平洋の旭日」パトリシオ・エイルウィン(池田大作全集第108巻)

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5  中国へ精神の扉を開き信義の橋を
 エイルウィン あなたは中国大陸をいくども訪問され、多くのご友人をもっていらっしゃいます。周恩来氏は、あなたのもっとも親しい友人のお一人であったと聞いております。
 池田 隣国である中国に対しては、ひとかたならぬ思いをいだき続けてきました。
 その直接の契機となった出来事の一つは、私がまだ十三歳だったころ、日本が中国大陸を戦場にして繰り広げている惨状を長兄から耳にしたときの鮮烈な思い出です。日本軍の残虐な行為に、憤りをおぼえたものです。
 また、恩師戸田第二代会長はつねづね、「日本と中国との友好がもっとも大事である」と語っていました。私は一人の日本人として、また戸田先生の弟子として、“必ずや将来、日中友好のために力を尽くしたい”と、長い間、心に深く期してきたのです。
 エイルウィン そうでしたか。
 池田 ええ。ですから一九六八年(昭和四十三年)に日中の国交正常化とともに中国の国際社会における地位回復をいち早く提唱しました。また、七二年に日中国交正常化の実現をみてから、これまで十回にわたって中国を訪問し、両国の友好交流の促進に尽力してきました。
 私の強い念願は、日本が引き起こした悲惨な戦争によって失われた友誼の絆をふたたび紡ぎなおすことにあります。そのためには、民間レベルという裾野での交流をいくえにも広げながら、たんに国交の回復という制度的な扉だけでなく、もっと深い次元で、たがいの“精神の扉”を開き、“信義の橋”を架けるしかないと考え、行動してきたつもりです。
 周恩来総理とは、二回目の訪中(一九七四年十二月)のさいに、ガンの闘病中にもかかわらず連絡をいただき病院でお会いしました。総理は目に光をたたえ、「二十世紀の最後の二十五年間が、世界にとってもっとも大事な時期です」と遺言のように語っておられました。事実、人類は大いなる激動を経験しました。その後、重責を担っておられた夫人の鄧穎超さんとも何度かお会いしました。夫人から周恩来総理の遺品もいただきました。
 エイルウィン 今日、中国大陸は世界最大の人口をかかえる国です。この地球上の人口の二〇パーセント以上が中国に住んでおります。また、中国は近年、もっとも大きな経済成長の実験を行った国の一つであり、現在の成長率を維持しながら、これからも進んで行くと予測しております。中国の将来について、どうお考えですか。
 池田 本年(一九九七年)五月に、上海を訪問しましたが、目覚ましい発展をとげる中国の姿を、訪れるたびに目のあたりにしています。無限の可能性を感じることもしばしばです。世界は今、人口やその版図の巨大さもさることながら、その伸びゆかんとする勢いを驚嘆の思いで見つめているのではないかと思います。
 私は二十五年前、トインビー博士とともに未来を展望し、“これからの地球・人類社会の統合化の過程にあって、主導的な役割を演ずるのは、間違いなく中国である”などと種々語りあったことを、思い起こします。
 エイルウィン 中国は、世界でもっとも古い文化、おそらく人間性という観点から見て、もっとも豊饒な文化をもっていると思います。
 私自身、国家元首の立場で中華人民共和国を訪問してみて、この国はすべてのことを、確実に遂行していく能力があり、新たなる国際秩序のなかで、たいへんに重要な役割を果たしていくと確信しております。中国の国際秩序における役割について、意見をお聞かせください。
6  人類の未来を信じる楽観主義に立ち
 池田 中国の数千年の歴史に脈打つエートス(気風)については、北京大学での講演(「新たな民衆像を求めて」、一九八〇年四月。本全集第1巻収録)や、中国社会科学院での講演(「二十一世紀と東アジア文明」、一九九二年十月。本全集第2巻収録)などで論じてきました。大要すれば、対立よりも調和を、分裂よりも結合を志向する「共生」のエートス、そして、個別を通して普遍を見る、現実そのものを直視し現実を再構成していく精神は、人類が未来を開いていくうえで寄与するところがまことに大きいと思います。
 つまり、前者は国際社会がめざすべき時代の潮流の核となるべき歴史の知恵であり、後者は“社会主義市場経済”という実験に見られるような、改革における漸進主義的手法の基盤となっている思想と言えましょう。加えて、香港の中国返還(一九九七年七月)にともなって始まる「一国二制度」の試みも注目されます。
 こうした中国がもつ特性というものはまさに、あなたがいみじくも指摘された「おそらく人間性という意味から見て、もっとも豊饒な文化をもっている」という事実に根ざしたものにほかならないと私も考えます。
 トインビー博士は私と対談した折、「中国こそ、世界の半分はおろか世界全体に、政治統合と平和をもたらす運命を担っている」と予見しておりました。私も、「尚文」という言葉に象徴されるような中国が長い歴史を通じて培ってきたソフト・パワーの潮流に着目しています。そして、この“人間主義的なモラルの力”こそ、今後の世界秩序を考えるうえで、一つの大きな機軸となりゆくものであると期待しています。
 さて、語らいは尽きませんが、私たちの対話もそろそろ結びとなります。最後に、二十一世紀は明るいと見てよいでしょうか。
 エイルウィン 私は生来、楽観主義です。私は人類のことを信じています。
 憂慮すべき問題はたくさんあります。そのうえ、歴史は人類の進歩の歩みは一直線ではないということを示しているのです。むしろ、向上しながらも、急降下があり、多くの障害があるのです。それでも、私は、二十一世紀を楽観的に希望をもって見ています。
 池田 よく分かりました。私も、必ず未来を明るくしていくとの確信と行動を自己に課して、楽観主義に立ちます。こうして論じあってきますと、あなたと私は、本当に多くの面で同じ方向に立っているように思います。二十一世紀の人類の明るい未来を信じて、この対話を終わりたいと思います。
 ありがとうございました。

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