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第七章 二十一世紀は人権の世紀――洋の…  

「太平洋の旭日」パトリシオ・エイルウィン(池田大作全集第108巻)

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8  「世界人権宣言」に根ざした司法制度を
 池田 その尊い経験のうえから、二十一世紀を「人権の世紀」としていくために、何を根本の機軸としていくべきか、また、具体的にどのような行動が有効であるとお考えですか。
 エイルウィン どうすれば世界各国および各地で人権をしっかり根づかせることができるのでしょうか? また、どのようにすれば、人権をより確固たるものにすることができて、後退させずにすむのでしょうか?
 このことに関して、絶対確実な方法があるとは、私には思えません。第二次世界大戦が終結して一九四八年十二月には、「世界人権宣言」が国連総会で採択されましたが、それ以降、ここ数十年の間に、この宣言は世界中で効力を発揮するようになりました。今日、法治国家はかなりの数となり、そこでは基本的人権が守られております。しかし、それが完全かつ撤回不可能な勝利でなければ、私たちにとっては凱歌をあげるわけにはいきません。
 人権を強化し、その効力を確実なものとして後退を許さないための基本は、国民生活での、また国際間での平和を確保することが、なによりも大切であるとの共通認識が強められることだと思います。この共通認識という点について、具体的に申し上げますと、人権を守るために法律学が作りあげた司法制度を普及し、それをより完全にしていくことが不可欠なのです。
 池田 第二次世界大戦への痛恨の思い、なぜかくも悲惨な戦争が起きたのか――それは国家が個人の人権を軽んじ、いとも簡単にないがしろにした結果である。そうした反省から、「世界人権宣言」が国連総会で採択されました。この起草作業にブラジル代表としてあたり、尽力されたブラジル文学アカデミーのアタイデ総裁とは親しい友人でした。
 いわば「人類の憲法」の序文ともいうべき宣言は、体制や文化、思想、宗教の違いを超えて、人類の普遍的な価値をうたい制定されるものだけに、作業は大いに難航したと聞きました。同じく制定に尽力した一人が、ルーズベルト元米大統領夫人で、アメリカでもっとも尊敬されている女性といわれるのも、分かります。
 エイルウィン アタイデ博士は、私もよく存じあげておりますが、とても高潔な言論の雄でした。
 池田 アタイデさんは、議決の国連総会で「この席上において、すべての民族がその良識の証としてこの宣言を可決すべきだ」と熱弁をふるいました。アタイデさんは、作業を振り返って、しみじみと話しておられた。論争が紛糾して、拳を固め机を叩き、獅子のたてがみのような髪を振り乱して声をからして責めたてた東側と西側の者同士が、驚くべきことに討議が終わるとバーでにこやかに談笑したのです――と。やはり人類の崇高な歴史を刻みゆこうとする共通の熱意と、とにかく一堂に会して粘り強く語りあう大切さをいったものです。
 ともかく三十カ条にまとめられた「世界人権宣言」は、非常に深い内容で、現在の視点で見ても、何かをつけくわえたり、削除したりする必要のないものです。
 エイルウィン イタリアのノルベルト・ボルビオが言っていますように“人権に関する諸権利というものは、それが何で、どのくらいのものなのか、その本質、根拠が何であるのか、自然にそなわったものなのか、それとも歴史的なものなのか、絶対的か、それとも相対的か、などということはあまり問題ではなくして、それらがしばしば侵害されないためには、確実なものとして保障されるためには――宣言文の重々しい文言にもかかわらず――どのようなより良いやり方があるのかが大切である”のです。
 そのためには人身保護法や、その他の保護手段、すなわち憲法や人々の自由を保障するための法律を定め、基本的人権が侵害されたり、蹂躙されている人々を保護する権限を司法裁判所にあたえるやり方がとられるべきでしょう。いくつかの国々では、このような目的でオンブズマン制度が作られて、日常生活における人権の保護をさかんに奨励しております。
 池田 “どのような良いやり方があるのかが大切である”――実際的に、どう機能させていくかが、大事ですね。
9  国連は超国家的な人権審査会の創設を
 エイルウィン こうした司法制度は、これまでの経験から申し上げますと、法治国家としての機能がいったん崩壊してしまうと無力なもので、独裁あるいは
 専制国家が突然、出現してしまいます。もし、人権というものがその本質からして万国共通なものであるからには、その権利――国家の権利より優先的で大きなものである人間の権利――の国際的な保護が認められ、強化されることが不可欠でしょう。そのためには、その有効性を監視する国際的な、あるいは超国家的な機構を創設し、改良していくことが必要です。
 たとえば、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ人権委員会といったもの、とりわけヨーロッパ、アメリカ人権審査会といったものが必要ではないでしょうか。私の国の経験から考えますと、国連加盟国のいずれかで人権侵害の可能性があるならば、それを調査して、その被害者を保護するための特別委員会を国連が設置し、人権を回復するような具体策をとることが大切です。

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