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日蓮大聖人・池田大作

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第二章 話し聞かせる“人生の真実”の物…  

「子供の世界」アリベルト・A・リハーノフ(池田大作全集第107巻)

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6  祖父母と孫との絆は、なぜ強いのか
 池田 仏典にも、「植えたての木であっても、強い支柱で支えておけば、大風が吹いても倒れない」(御書一四六八㌻、趣意)とあるとおりです。子どもを思う親の愛情にまさる支えはありません。
 ところで、おとぎ話のもっている真実をなぜ、若い母親よりも、おばあさんがいちばんよく伝えられると思いますか。
 リハーノフ 女性は、おばあさんになったときに、心のどこかで、自分が若いお母さんだったころ、息子や娘に対して、必ずしも十分手をかけてやれなかった。雑事に追われて、いつもせかせかしていた――そのころの自分を振り返って、反省をする気持ちが出てくるのではないでしょうか。
 そして、おばあさんになったときに、第二の母親期を迎えて、白髪の円熟した人間として、過去の過ちを償おうとするのではないでしょうか。
 フランス語では、おばあさんのことを「グラン・メール」(大きいママ)、おじいさんのことを「グラン・ペール」(大きいパパ)と言いますが、私はこの「大きい」という表現がたいへん気に入っています。
 池田 おもしろいですね。
 リハーノフ 孫はちなみに、「プチ・フィス」(小さい息子)、「プチット・フィーユ」(小さい娘)と言います。このようにフランス語には、おばあさん(おじいさん)と孫の関係性がよく表れているように思います。
 小さい息子、小さい娘と、大きいママ、大きいパパというのは、もともと強い結びつきをもっているのではないでしょうか。
 だからこそ、孫もおばあさんの語るお話をじっと聞くのです。また、人生経験のにじみ出たおばあさんの言葉は、穏やかに心にしみるように響くのです。
 池田 悲しいことに、家庭に限らず現代社会にあっては、こうした生きた対話、魂と魂とのふれあいが、本当に少なくなってしまいました。
 たしかに、育児書や子育て教室を頼りに悪戦苦闘している若いお母さんたちに、何もかも望むことはできないでしょう。
 しかし、だからといって、河合氏が言うところの「内的真実」が根こそぎにされてしまえば、それこそ人間社会の崩壊につながってしまう恐れがあります。
 善悪のけじめ、弱者へのいたわり、働くことの尊さ、恩あるものへの感謝等々、人間を人間たらしめている「内的真実」の伝承作業だけは、絶対に絶やしてはならないのです。
 リハーノフ まったくそのとおりです。
 池田 「おばあちゃんのお話」のように、肉声をともなう聞き語りとまではいきませんが、せめてその時期に良書を、との思いから、素人ではありますが、私なりに童話を書き、子どもたちと“メルヘンの世界”を共有したいと、つねづね念じています。「自分にできることがあれば、何でもしてあげたい」との切なる願いからです。
7  世界のすべての子どもが「幸福」に
 リハーノフ その思いは、痛いほどよくわかります。そうした胸のうちを、私は『けわしい坂』の日本語版に、メッセージとして託しました。その一部を紹介させていただきます。
 「国から国へ通う船は、鉄でできています。でも、紙の舟もあります。子どもがつくって、春の小川に流す舟です。
 民族から民族へとぶ飛行機は、金属でできています。でも、紙の飛行機もあります。子どもがつくって、わらいながらとばしあう飛行機です。
 この本は紙でできています。書いたのは、もちろんおとなです。けれど、子どものために書いたのです。
 日本の小さいわたしのお友だち。紙の舟のような、紙の飛行機のようなこの本を、きみにおくります」(島原落穂訳、童心社)
 池田 慈愛にあふれたお言葉です。そのような童心を、いつまでも失いたくないものですね。
 青年時代、私は、恩師戸田先生の経営する出版社で少年雑誌の編集長を務めていました。
 少年のころから、新聞記者か雑誌記者になりたいという夢をいだいていた私は、大張りきりでこの仕事に挑みました。
 何よりも、「未来からの使者」である少年少女たちのための仕事であることに大きな使命と喜びを感じていたのです。
 リハーノフ そこに、あなたの教育活動の原点があるのですね。
 池田 ええ。仕事に没頭するにつれ、目にする子どもたちが、かわいく思えて仕方がありませんでした。
 路上で見かける子どもたち、公園で遊んでいる子どもたち、ケンカして泣いている子どもたち、黒板とにらめっこして勉強している子どもたち――時に私は、彼らを抱きしめてあげたい思いにかられることもありました。この子どもたちのためなら、どんなことでもしてあげたい――と。
 友人であるトルコの国民的歌手バルシュ・マンチョ氏が言った、「私はトルコの子どもたちのためなら、この身の最後の血の一滴までささげます」との言葉が胸に焼きついています。
 リハーノフ なるほど。その心情は、よくわかります。
 池田 私はどんな時でも、子どもを立派な一個の人格として尊重し、尊敬し、紳士とも淑女とも思ってお付き合いしています。また、作品を書く場合も、その魂に語りかけるつもりで取り組んでいます。
 私の童話の絵を手掛けてくださっている、著名なイギリスの童画家ブライアン・ワイルドスミス氏に、「子どもが心の奥底で求めているのは、何だと思いますか」と尋ねたことがあります。
 氏は、即座に答えました。
 「『幸福』です」
 「もちろん、幸福の内容は年とともに変わっていきます。だが、生涯変わることのない『幸せ』の源泉とは何か。それは『創造力』です」
 人間の一生を決める子ども時代。
 世界中のすべての子どもに「幸福」になってもらいたい。すべての子どもの輝く笑顔が見たい。すべての子どもの“心の大地”に、恵みの雨のごとく、滋養を降らせたい。
 そしてもちろん、“心の大地”を豊かにするのに、深い「理解」と「愛情」以上の滋養はありません。
 リハーノフ 同感です。子どもの幸福は、慈しんでくれる大人とのふれあい、愛情あふれる学校の先生や、もっといえば、周囲の愛情や好意につつまれていることだと思います。
 そのような環境を作るのは、たいへんむずかしいことです。そして、大人たちが絶え間なく労力を惜しまないことが要求されます。ですから子どもの幸福は、善良な知恵ある大人の努力にかかっているのです。

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