Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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「関東会」「東京会」合同研修会 目覚めた民衆の力は偉大

1990.8.7 スピーチ(1990.2〜)(池田大作全集第74巻)

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5  トルストイの不屈の闘争を支持した民衆
 さて、一九八一年(昭和五十六年)の第三次訪ソの折、私はモスクワ市内の「トルストイの家」と「トルストイ資料館」を訪れた。文豪トルストイ(一八二六年〜一九一〇年)は、青年時代からとりわけ親しんだ作家の一人であっただけに、感慨もひとしおだった。
 資料館を見学するうち、当局の検閲が施された彼の本に並んで、つつましく置かれていた一塊の緑色のガラスに目をひかれた。一見、平凡で見過ごしてしまうほどのガラスであったが、その輝きは、なぜか私の心に迫ってきた。
 聞いてみると、そのガラスの塊は、ガラスエ場の労働者から、トルストイのもとに届けられたものとのことであった。
 後半生のトルストイが、非人間的な圧政や不正に対して激しく抗議し続けたことは、よく知られている。彼は邪な権力に、決して妥協しなかった。それは「権威の力」に対する「精神の力」の闘争であった。「精神」によって屹立するトルストイの雄姿は、まさに″人間王者″をほうふつとさせるものであった。
 ″ロシアの良心へまた″世界の良心″として尊敬されるトルストイに対して、時の権力者たちは、出版物の発禁などの弾圧を加えた。そして当時、国家権力と結託した教会も、権威をふりかざし、トルストイを圧迫した。
 しかし、この時、民衆は迫害がみずからにおよぶことも恐れず、「トルストイ絶対支持」の雄叫びをあげるのである。トルストイに、ガラスの塊を贈った労働者たちは、彼を熱烈に支持する、そのような民衆の一員であった。
 「トルストイ翁に、われわれの気持ちの″証″を捧げようではないか」「そうだ。何もないが、われわれでも贈れるものがある」――一塊のガラスには、そうした労働者たちの深き思いが込められていたにちがいない。
 ガラスには、次のような文面が、金文字できざまれていた。
 「レフ・トルストイ様足下。あなたは時代の先駆者である多くの偉人達とその運命を同じになさいました。前にはこういう先駆者達は、薪の山で焼かれたり、牢獄や追放のうちに空しく朽ち果てたものでございます。パリサイの徒なる主教らの欲するままに、あなたを教会より勝手に破門するがよい。ロシアの人民はあなたを自分らの尊く慕わしい偉人と数えて、永遠にこれを誇りとするでございましょう」(ビリューコフ『大トルストイ3』原久一郎訳、勁草書房)と。
 「パリサイの徒」とは、形式にこだわる偽善者のことである。
 権威をカサに着た圧迫がどれほどあろうとも、私たち民衆は断固として「正義の人」を支持する。たたえていく。権威ばかりの教会など相手にする必要はない。心配しないでください。私たちが、あなたの「正義」を、そして「勝利」を、永遠に伝え残していきます――との、力強き″宣言″であった。(拍手)
 本来、「民衆」ほど強いものはない。「民衆」の団結の力に勝るものはない。トルストイ自身、自分とともに歩んでくれる民衆の群像を、どれほどうれしく、頼もしい思いで見守っていたことであろうか。
 「魂の巨人」トルストイ。彼とともに、横暴な権威をはねのけて誇らかに進む「民衆」。一幅の、壮麗な名画のような光景である。(拍手)
6  「精神」の力こそ「民衆の時代」の力
 私どもの信仰もまた、自分自身を屹立した「魂の巨人」へと鍛え、高めていく実践である。そして「民衆」と「民衆」、「庶民」と「庶民」の、強き心の連帯を広げゆく人間共和の歩みなのである。
 何よりも尊く、大切なのは「人間」である。「民衆」である。仏法の意義も、この一点にこそある。
 ゆえに、一次元からとらえれば、どこまでも「民衆」に尽くし、民衆の幸福のために骨身を削って戦う人こそ、真の「仏法者」である。そして、その″正法主義″の人には、必ず諸天善神の加護がある。だれよりも「民衆」自身が、諸天の力用そのものとなって、仏法者を守り、支えていくのである。ゆえに、尊き仏子を守り、励ましていく人には何の恐れもない。(拍手)
 「大願とは法華弘通なり」と仰せのように、「妙法弘通」「広宣流布」こそ、日蓮大聖人の仏法の″魂″である。
 その広宣流布の実践に邁進する人は、全員が大聖人の門下である。地涌の勇者である。どうか皆さま方は、広布という崇高な使命の道を、″誇らかな心″で、たがいにたたえあいながら進んでいただきたい。横暴な権威などものともせず、快活な笑顔をはずませながら、おおらかに、また堂々と胸を張って歩んでいただきたい。(拍手)
 「精神」の巨大な力に勝るものはない。それが妙法の世界の強さである。利害や形式ではない。
 「精神」は目に見えない。しかし、ひとたび目覚めた民衆の「精神」の火種は、決して消えることはない。永遠に、未来へ、世界へと広がり続けていくのである。このことを申し上げて、本日の記念のスピーチを終わりたい。
 (渋川平和会館)

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