Nichiren・Ikeda
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束縛されたくない!
「希望対話」(池田大作全集第65巻)
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9 片腕の少年
池田 その方は小学校六年の夏、事故で右腕を失ってしまった。手術から目が覚めたら、すでに右腕はなかった。こんな不自由な体で、どうしたらいいのか――「千丈の崖から突き落とされ」たように孤独で、「いっそ死んだほうがいい」と思うようになったという。「学校に行こう」と友だちに誘われても、恥ずかしくて、行けなかった。
そんな少年を周囲は一生懸命、励ましました。少年も「悩んでばかりいても仕方がない」と思い、勉強を始めた。真剣だったから、少しずつ成績が上がり、やがて勉強の面では、周囲にも劣らぬ力をつけた。それが自信となって、「もう絶対に人には負けない。よし私は生きよう」と、決意できたのです。
―― 強いですね。
池田 強くなることです。強くなればなるほど自由になれる。
その方は「僕のライバルは四肢完全な健常者だ」と決めた。健常者が両腕で一時間かかる仕事が、二時間かかる。だから、そのギャップを「努力」の二字で埋めていった。「時間で解決する方法と、集中力で解決する方法と、知恵で解決する方法をつなぎ合わせれば、絶対に勝てるんだっていう意識をきちっともったんです」。こう言っておられる。
何でも挑戦した。精いっぱいやった。挑戦すれば、不可能なことなど、何一つなかった。それで「負けないで生き抜いていける」と、さらに自信が強まった。そして本年(二〇〇〇年)三月、長年の地域医療への功績が認められ、「吉川英治文化賞」を受賞されたのです。
―― 体が自由な人より、すごいですね!
10 「幸運だった! 苦労できたから」
池田 この方は八十四歳で、今も現役です。こう言われている。
「いまになって考えると、この五十年間、いろいろと苦労もあったけれども、僕はものすごい幸運だったなと思うんです。小学生のときに右腕を失った僕が今日あるのも、苦労をつくってくれるところの場所が僕に与えられたからだ」と。
″人生の勝利宣言″です。(文中の引用は『MOKU』二〇〇〇年五月号〈黙出版〉から)
―― どうすれば、この方のように「強く」なれるのでしょう。
池田 「苦労をつくってくれるところの場所が僕に与えられたからだ」と言われているでしょう。
今の自分自身のなすべきことに挑戦することです。今の課題から逃げてはいけない。その「挑戦」と「努力」のなかに、「強さ」は自然とつくられていく。
「力」があれば「自由」になれるのです。ピアノもそう、書道もそう、スポーツもそうでしょう。
自由自在に活躍するためには、「力」をつけなければならない。「強く」ならなければならない。そのためには、自分を不自由な立場に置いてでも、懸命に練習しなければならないときがある。苦労を避けて、自分のしたいことだけをやっても、力はつかない。
―― やるべきことから「逃げる」のは、そのときは自由のようで、結局、「不自由」になるのですね。
池田 自由とは「翼」です。自分の目的に向かって、あなたの思いどおりに飛ぶのだが、飛びやすい「軌道」が、じつは、あるのです。
自由に飛んでいるように見えるロケットにも、きちんとした軌道があるように。
―― たしかに「軌道」から外れると、ロケットは目的地に着きません。
池田 自由に羽ばたいているようでも、鳥には鳥の軌道がある。太陽にも、月にも、地球にも、揺るがない運行の軌道がある。人間には、人間の軌道がある。
途中には、いろいろな、いやなことや障害物がある。それらを乗り越えたり、時には上手に、よけて、迂回して、自分の軌道を進みなさい。
今の諸君が歩むべき「軌道」とは何か。また、到達すべき「目的地」とは、何なのか。
「目的地」は、幸福になることです。何があっても負けない心――″どんなつらいことがあっても楽しめる自分″″自由自在に、世界に貢献できる自分″を築くことです。
「軌道」とは、そのために知力、体力、精神力を養うことです。
―― 中学生の立場で言えば、勉強やクラブに挑戦していくことですね。
池田 そのとおりだ。それをやらずして、本当の自由はありません。
人間にはみな、一つの「楽譜」が与えられています。その楽譜の曲名は「私の人生」という。その楽譜を目の前に置いて、さあ、どのように演奏するか。また自分で、どう、もっともすばらしい曲に変えていけるか。
それは、あなた自身に、まかされているのです。そして、あなたの努力しだいで、人生の幸不幸が決まるのです。