Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第7章 苦労は必ず喜びに  

「21世紀への母と子を語る」(池田大作全集第62巻)

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9  親や教師の人格が伝わる
 小野 私も、両親が喜々として人々のために活動する姿を見るのが、子ども心にうれしく、誇りでもありました。
 先日、小学二年生の娘さんがいる婦人部の方から、こういう話を聞きました。
 ある時、不登校だったクラスの友だちが久しぶりに登校してきて、階段を上がっていく姿を、その方の娘さんが見つけました。
 娘さんは、その子のそばに駆け寄り、「よう来たね。はよう上がんさい。元気だった?」と声をかけ、手をつないで教室に入っていったそうです。
 そのことを、担任の先生から聞かされ、「どうして、お宅のお子さんは、あんなに優しく声かけができるのですか」と尋ねられたというのです。
 お母さんは言いました。
 「わが家は学会の拠点で、お年寄りの方や、会員の方が来るたびに、『寒かったでしょう。早く上がってください』『よく来られましたね。お元気でしたか』と声をかけています。その姿を、いつも見ていたから、自然にそうしたのだと思います」と。
 池田 日頃の親の振る舞いこそ、何よりの教育だね。口先や理屈では、いろいろ言えるけれど、子どもに一番、伝わるのは、親の生き方であり、人格です。
 学校教育にあっても、教師の「人格」こそが、子どもに最も影響を与える教育環境と言えます。
 先日(一九九九年十一月)お会いした、モスクワ大学のサドーヴニチィ総長が「本当によい人材は、大教室からは育ちません。一対一で、教授のそばに置いて育成しなければなりません」と語っておられた。
 本当の学校というのは「建物」にあるのではなく、「教える人の人格の周り」にできるものだと。
10  「恩返し」の心で人材育成を
 大塚 私自身、忘れられない学校の先生がいます。高校時代の担任の先生です。
 生活が苦しくなって、もうこれ以上、母に負担をかけることはできないと思い、その先生に「学校をやめて働きに出たい」と相談したことがありました。
 職員室で、じっと私の話に耳を傾けてくださった先生は、こう言われました。
 「俺の小遣いは、月に三〇〇〇円だ。それをみんな、お前にやるから、なんとか高校を続けられないか」――。
 その先生は美術を教えていて、ふだんは物静かな方でしたが、この時は、熱心に、力を込めて語ってくださったのです。本気になって心配してくださる心が、ひしひしと伝わってきて、胸が熱くなりました。
 家に帰って、なんとか学校を卒業したいと、あらためて強く祈りました。母も、できるだけの応援をするから、頑張りなさいと言ってくれました。
 その後も先生が奔走してくださり、二つの奨学金をもらえるようになって、無事に卒業することができたのです。
 小野 すばらしい先生ですね。
 今は、そういう先生が少なくなったような気がします。
 大塚 先生の真心に応えたいと、それからはいっそう勉強にも頑張りました。
 その後、先生は若くして亡くなりました。葬儀には、大勢の教え子が集まり、男性も、女性も、みんな泣いていました。どれほど生徒たちから慕われていたかが一目で分かる光景でした。
 その先生のことを思うと、今も感謝の心でいっぱいになり、涙があふれてきます。
 池田 そういう、教育者に出会えたこと自体、最高の幸福だね。
 今、大塚さんが、学会の婦人部の中で、人びとのために尽くし、未来の人材を育成している姿を、きっと喜んで見守っておられると思います。
 自分を育ててくれた人への恩を忘れず、こんどは自分が、わが子や後の世代のために行動していく。それが何よりの「恩返し」なのです。
 恩を忘れない人は、美しい。恩を知り、恩に報いていくことこそ、「人間の道」であり、その人は豊かな人生を歩んでいける。反対に、恩を忘れるような人は、傲慢であり、最後はわびしい人生を送っていくことになる。
 戸田先生の生誕一〇〇周年を迎えて、私の心は、いよいよ先生に対する感謝に満ちています。生涯をかけて、いな、永遠に戸田先生に、ご恩返ししていく決意です。
 戸田先生は晩年、よく牧口先生をしのばれて、「先生がいないと寂しい。牧口先生のもとに帰りたい」と言われていた。
 それを聞くたびに私は、師弟の姿の崇高さに、強く心を打たれました。
 私は、戸田先生によって育てられました。今の私があるのは、すべて戸田先生のおかげです。いくら感謝してもしきれないほどの、ありがたい師匠でした。ですから私は、毎日、「戸田先生、きょうも私は戦います」と心で語りながら、走り続けています。
 皆さまも「恩返し」の心で、子育てに、教育に、人材育成にと取り組んでいってほしい。今の自分に育つまでに、親をはじめ、たくさんの人から、どれほどの苦労、どれほどの励まし、どれほどの愛情が注がれたことか――その感謝を忘れてはいけません。こんどは自分が、その恩を、子どもたちや後の世代に返していく番です。
 親から子へ、先輩から後輩へ、師から弟子へ――そうした、世代から世代への大きな流れの先に、二十一世紀の輝かしい未来が開けていくのです。

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