Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第3章 「生きる力」を親子で育む  

「21世紀への母と子を語る」(池田大作全集第62巻)

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10  人生の目的は自他ともの幸福
 笠貫 人間の真価は、逆境のなかでこそ表れるものなのですね。
 実は、先ほどの由香利さんの絵がきっかけで、わが家でもこんな出来事がありました。
 ある時、娘の同級生のお父さんが倒れられ、親同士の連絡で報せを聞いた私は、娘に伝えると、すでに知っていたようで……。
 すぐ娘といっしょに唱題しようと思ったのですが、親から一方的に言うのもどうかと思い、一瞬、迷いました。
 そんな時、由香利さんの絵を思い出し、「今日は、お母さんといっしょに『応援団』になってお題目を送ろうよ」と話すと、喜んで賛成してくれて……。二人で一生懸命、祈りました。
 幸い手術は無事成功し、「本当によかったね」と声をかけると、娘は少し照れくさそうにしながらも、とても喜んでいました。
 池田 人のために祈り、心を尽くす――これほど、人間として尊いことはない。
 戸田先生も、「自分が幸福になるぐらいは、なんでもない。簡単なことです。他人まで幸福にしていこうというのが信心の根底です」と、よく強調されていた。
 笠貫 そこに、学会の世界の本当のすばらしさがありますね。
 思い返せば、私が信心を始める大きなきっかけとなったのは、学生時代に知り合った近所の女子部の方のある一言でした。
 会合に誘われ会場に向かう途中で、「人生の目的って何だと思う」と聞かれ、私がとっさのことで答えに窮していると、その女子部の方が「それは幸福でしょう。それも自分だけの幸福じゃなくて、自他ともの幸福よ」ときっぱり言われて……。
 驚くやら感動するやらで、人生観が大きく変わる思いをしたことを覚えています。
 原田 常日頃、社会のため、友の幸福のためにと思って活動しているわけですが、自身が病気になってみると、周りの方々が励ましてくださる、そのありがたさを、私も味わいました。
 五年前、健康診断で、特に自覚症状はなかったのですが、たまたま腫瘍が見つかって、手術を受けることになったんです。
 心細くなる時もありましたが、いちばん支えとなったのは、先生のご指導であり、温かく確信に満ちた励ましでした。
 先生はよく、「会員の皆さんの健康と幸福を祈っていくのが、名誉会長である私の責任です」と言われますが、自分が病気になってみて、そうした先生の真心をひしひしと生命に感じられました。どれだけ勇気づけられたかしれません。
 また、同志の方々もお題目を送ってくださって、おかげさまで手術は成功しました。
 大きな手術でしたので、術後もしばらくの間、横になっているのも、座っているのも苦しい、辛い日々が続いたのです。
 その時にも、思いがけず先生から「祈っております。大丈夫です」との伝言をいただいて……。胸がいっぱいになり、生きる力が体中に湧いてきたことは、今も忘れられません。
 笠貫 今では、そんな大病をされたことなど、まったく感じられないほど、元気になられましたね。
 原田 ありがとうございます。
 退院してからは、「新しい命」をいただいたとの感謝の思いで、この五年間、今まで以上に、真剣に皆さんのお役に立てるよう、祈り、行動してきました。
11  ともに悩みを乗り越える生き方を
 池田 本当によかった。皆さん方が元気に使命の舞台で活躍される姿ほど、私にとってうれしいことはありません。
 悩んでいる人がいれば、自分のことはさておいても全身全霊で励ましていくのが、仏法者の心であり、創価学会の精神です。
 現代は、“自分さえよければ”とか、“他人のことなどかまわない”といった風潮が強まってきている。
 そんな殺伐とした世の中にあって、創価学会は、“苦しんでいる人を放っておけない”“いっしょに幸せになろう”と、ともに手に手をとって進んできた。だから強いんです。
 御書にも、門下である富木常忍の夫人が病気であるとの報せを受けた日蓮大聖人が、富木常忍をこう励まされている御文があります。
 「尼御前のご病気のことは、私自身の身の上のことと思っておりますので、昼も夜も(夫人の健康を)諸天に祈っております」「願わくは、日天、月天よ。尼御前の命に代わって助けられよ」(978㌻、趣意)と。
 富木常忍夫妻の悩みに同苦され、その心にまっすぐ分け入るように渾身の激励をされる大聖人の御姿――私は、ここに口先でも形式でもない、生命からほとばしる思いで、真剣勝負の“蘇生の励まし”を送る、仏法者としての根本姿勢が示されていると思います。
 笠貫 「私自身の身の上のことと思っております」とは、本当にありがたい激励ですね。私たちも、その心構えで、同志の皆さんに接してまいります。
 池田 牧口先生も戸田先生も、悩める友を前に、時には涙さえ浮かべて、わが事のように心配し激励され、その人たちが宿命を乗り越え、「新しい人生」を悠然と開いていく姿を見ることを最大の喜びとされていた。これが創価学会の偉大なる伝統です。
 病弱だった私がここまで生きてこられたのも、“断じて死なせはしない”と戸田先生が徹して祈り、「死ぬなよ」「早死にするな」と励まし続けてくださったからでした。
 “苦しんでいる友に幸せになってもらいたい”“友の悩みを何とか解決してあげたい”との思いが、「生きる勇気」となり、「希望の光明」となって、「幸福の大道」がともに開かれていく――その生き方のなかにこそ、最高の人間性の輝きがあるのです。
 教育も子育ても、精神は同じです。
 子ども一人ひとりがかかえる悩みに真剣に耳を傾け、その苦しみをともに乗り越えていこうとする――こうした心が、一切の出発点になるのです。

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