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日蓮大聖人・池田大作

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第7章 わが子に「ありがとう!」  

「21世紀への母と子を語る」(池田大作全集第62巻)

前後
10  ”出会った人を皆、幸福に!との思いで
 渡辺 当時、バナナといえば高級品でしたね。
  はい。北海道の同志のために激務を続けられる先生を、少しでもおもてなししたい、という気持ちで用意しました。
 先生は、いったん「ありがとう」と受け取られてから、「これは、ほかの人に差し上げていいですか。だれにあげると思う?」と。
 いぶかる私たちに、「ここまで車を運転してきて、今、外で待っていてくれる人に差し上げたいのです」と。
 今、思えば、それほどまでにこまやかな配慮をされる先生は、まだ三十歳になられたばかり。思い出すたびに、陰の人を大切にする指導者の姿勢を学ばせていただく思いがします。
 池田 北海道は、牧口先生、戸田先生が、青春時代を過ごされた天地です。恩師の故郷は、弟子である私の故郷でもある。
 札幌は、本当に思い出深い地です。
 地元の同志が運転するスクーターの後ろに乗って、市内中を駆け回ったこともあった。
  昭和三十年(一九五五年)の“札幌・夏の陣”ですね。私の両親も、本当に生き生きと活動していたのを覚えています。
 先生は、スクーターの後ろでも、ずっと題目をあげておられたと聞きました。
 運転している人が、「私の運転は大丈夫ですから、安心してください」(笑い)と言うと、「ちがうんだ。今、この札幌で悩んでいる人、苦しんでいる人を一人でも多く救いたい。その思いで、私は、題目を大地にしみこませるように祈っているのです」と。
 池田 そんなこともあったね。
 出会った人には、一人残らず「幸福の大道」を歩んでいただきたい。この思いで五〇年間、走ってきました。
 渡辺 本当に悩み、苦しんでいる人を、大きく抱きかかえるように励まされる先生の姿を目の当たりにするたびに、先生の慈愛の深さに打たれます。
 創価小学校でも、母親を亡くした児童に、先生は心からの励ましをしてくださったことがありました。
 学会の看護婦さんの集いである「白樺グループ」の先駆者・林栄子さんが亡くなられたのは、昭和六十年(一九八五年)七月十六日のことでした。
 小学校三年生の新子さんと、一年生の尊弘くんの、二人のお子さんが創価小学校に学んでいました。
 栄子さんが亡くなった翌日、学園に来られていた池田先生は、二人を呼ばれ、抱き寄せられて激励してくださいました。
 「お母さんは、ずーっと生きているよ。先生がいるから、ずーっと見ててあげるよ。
 泣いちゃいけない。獅子の子だから。負けちゃいけない。勇気が大事なんだよ」と。
 先生の奥様も、通夜にお越しになり、「お母さんのように立派になってくださいね」と、激励されました。
 そのあとの七月二十一日、新子さんは「お母さんの思い出と私の決意」という作文に、こうしたためています。
 「一、お母さんみたいな人になる。
  (この言葉は奥様が言ってくださった言葉です)
  一、泣かないで獅子の子になる。
  (この言葉は池田先生がこの前あった時に言ってくだ さった言葉です)
   私は、お母さんとこのことを約束します」
 新子さんは今、お母さんのあとを継いで、東京の、ある大学病院の看護婦として働いています。弟の尊弘くんは、創価大学経営学部で、環境管理に関する勉強に励むとともに、元気にサッカーに打ち込んでいます。
 池田 本当にうれしい。私は、今も、二人の成長をじっと見守っています。
  私たち親子も、先生からの励ましを支えに、力を合わせて頑張ってきました。
 何らかの事情で、父親だけ、母親だけで子育てをしていかねばならない場合、心がけるべきポイントは、何でしょうか。
 池田 その家族の置かれている状況によって、一概には言えないでしょう。
 ただ、子どもが劣等感をもたないようにすることが重要ではないだろうか。
 すべて、両親がそろっているのと同じにする必要はありません。
 「こんな時に父親がいてくれれば」「母親がいたら」と思うこともあるかもしれない。しかし、両親がそろっていても、自立できない甘えん坊が育ってしまうことがある。逆に、若くして親を亡くしても、立派に成長している人はたくさんいる。
 子どもを育てる人が真剣に祈り、真剣に子どもを愛し、必死に生き抜けば、愛情は必ず子どもに伝わります。恵まれた環境の子よりも、たくましく強い子どもに育つこともある。
 牧口先生は、幼いうちに両親と離別しています。しかし、苦労に苦労を重ねて、あれほどの偉大な人生を築かれた。
 釈尊もまた、生まれてすぐに、母親を亡くしている。“親がいなくても、人間は偉大になれる”と身をもって示したのです。
 ふつうは“マイナス”になると思われていることも、「強い心」があるなら――私どもで言えば「信心」があるなら、“プラス”に変えていけるのです。
 要は、何ものにも負けない「強い心」を育むことが根本です。
11  子どもが親を最高の生き方へと進ませる
 渡辺 子どもの病気は本当につらいことですが、突然、非行に走るのも、親にとっては天地がひっくり返るようなショックを受けるようです。
 よく「問題児」などと言いますが、実はその子自身が「今、何が問題か」「何を変えなければいけないのか」を、周りに教えてくれていることが多いですね。
 親も、教師も、ともすれば「解決」ばかりを焦ってしまいがちです。騒ぎにならないように、問題が静まるように、と。でも、表面的な解決は、本質的な問題を先送りするだけです。かえって、問題をややこしくしてしまうこともあります。
 その時、「自分は、本当に『子どもの幸福』を考えているのか?」――そう、自問することが必要だと思います。
 「子どもの幸福」を第一に考え、教師自身が、そして親自身が成長する。それが、真の解決への近道だと思います。大切なのは「子どもを信じぬく力」です。
 池田 「信ずる力」――仏法でも、「信力」「行力」と言うね。
 戸田先生は、ある時、「長男が不良で、家に帰ってこない」という悩みに答えて、こう語ったことがある。
 「仏法上の根本問題は、そういう子どもを産んだ両親の宿命です。その子をじっと見た時、『この子を立派にしなければいけない。この子こそ私を仏にするのか』と拝むようになる心境こそ大切です」
  よくよく、かみしめるべき言葉だと思います。
 池田 親子の縁は不思議です。三世の生命観から見れば、どれほどの深い絆で結ばれていることか。その子どもが、自分に、そしてまた家族に、最高の生き方へと進むきっかけを与えてくれるのです。
 それを親が、どう受け止めるかで、親も子どもも、大きく人生が変わってくる。
 どんな苦しみがあっても、どんな試練があっても、「わが子よ、生まれてきてくれて、ありがとう」――こう、心から言えるようになった時、親子は共に、幸福の方向へ進んでいけるのではないでしょうか。

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