Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

第5章 子どもに何を与えるか  

「21世紀への母と子を語る」(池田大作全集第62巻)

前後
9  心一つでわが家を幸福の劇場へ
 池田 好きな物を買ってあげたり、何でも希望を叶えてあげることは、お金さえあれば、ある意味で簡単なことかもしれない。
 しかしそれでは、いつまでたっても、本当の満足感を味わうことはできない。他人に何かをしてもらうことに慣れてしまえば、ちょっとしたことで、すぐ不満を感じるような、わがままな人間になってしまう。
 むしろ、大変な状況のなかでも、自分の力で目標に向かって進む力――「やり抜く力」「頑張り抜く力」を温かく育んであげることのほうが、どれほど偉大か。
 戸田先生もよくおっしゃっていた。
 「人生は、住む所、食べる物、着る物に関係なく楽しむことができる。この法則を真に知るならば、人生は幸福なのだ。何事も感情的であるな。何事も畏れるな」と。
 まさに、人生の極意です。子育ても、まったく同じことが言えるでしょう。
 歴史上の偉人と言われる人たちも、全員が全員、環境に恵まれていたわけではなかった。むしろ、逆境のなかで磨かれたからこそ、大きく羽ばたくことができたという人のほうが多いのです。
 森本 ほっとしました。(笑い)
 うちは家が狭いので、四人の娘が勉強するにも、六畳一間の部屋しかありません。机も、食事用のテーブルを使っています。
 ですから、食事をすませ、「さあ、勉強」となると、今度は同じテーブルで、みんなでいっしょに勉強して、といった感じで。(笑い)
 それで、勉強や宿題も、上の子が下の子に教えるという雰囲気が自然とできて、不思議とうまくいっています。
 上の娘が大学受験の時は、双子の娘も高校受験を控えていて、大変な時期でしたが、「こういうなかで、受験勉強しているんだから、私たち偉いわね」(笑い)と言いながら、頑張っていたようです。
 池田 みんな、たくましく育っているね。
 何もかも環境が整っていないからといって、お子さんを不憫に思ったり、落ち込んでしまう必要はありません。
 今ある環境を、そのまま最高の環境へと変えていけるのが、親の深き一念です。その知恵があれば、お子さんは間違いなく立派に成長します。
 幸福というのは、“あれがあれば”“環境がこうなれば”手に入るというようなものでは決してない。
 戸田先生が言われたように、いずこにあっても、また何があっても、自分らしく、朗らかに、名優のごとく、人生を楽しみきっていける「境涯の開花」にこそ、幸福はある。
 母親の心一つで、わが家を最高の幸福の劇場へと自由自在に変えていけるのです。
 谷川 希望が出てきます。私もしっかり取り組んでいきたいと思います。
 婦人部のモットーのなかに「親子で歩む正義の道」とあります。かつて母が私のことを願ってくれていたように、今度は私が、親子ともども栄えある使命の人生を歩んでいきたいと、真剣に祈っています。
10  偉大な人の陰には偉大な母の存在が
 池田 七年ほど前(一九九一年)、南アフリカの人権の闘士である、詩人のムチャーリ氏と会談しました。
 氏は、投獄などの弾圧にも屈せず、アパルトヘイト(人種隔離政策)との闘争を続ける支えとなったのは、母親であったと語っていた。今も忘れられません。
 「私が母から教わった最大の教訓は、どんな肌の色、信条、どのような文化背景をもっていても、みんな同じ人間である以上、同じように尊敬されなければならないということでした」
 氏の母親は、この信条のままに、黒人だからという理由だけで差別を受けると、断固抗議し、一歩も退かなかった。氏は、そんな母親の姿を目の当たりにして、身をもって学んだといいます。
 氏はしみじみ語っていました。「母が亡くなって、私は気づいたのです。私のもっている力は、母がくれたもの、母が残してくれたものだと。母の言葉は私の中に息づいています。母が私の中に生きているのです」と。
 森本 “母子一体”の、勝利のドラマですね。
 谷川 その会見の時のエピソードをうかがったことがあります。
 会見の場所に美しく飾られた「生け花」に、ムチャーリ氏が視線を向けた時に、先生が「お父さま、お母さまのために生けました。ご両親の美しい生涯を偲んで」と声をかけられた。
 すると、ムチャーリ氏が、「ありがとうございます。両親が今ここに見守っていてくれる気がします」と、満面の笑みで応えられた、と。
 池田 大切な友人を、誠意をもってお迎えしたいとの気持ちからです。
 “欧州統合の父”と呼ばれるカレルギー伯も、「母がいなかったら、私は決してヨーロッパ統合運動を始めることはなかったでしょう」と言い切っておられた。母親は、日本人のミツコ夫人です。
 偉大な人の陰には、必ず偉大な母の存在がある――私もこの五〇年、いろんな家庭を見てきたが、つくづくこのことを実感します。
 御書に、南条時光の信心を愛でられた日蓮大聖人が、「これは、親の志が形となってあらわれたものにちがいない」(1531㌻、趣意)と仰せになっている御文があります。広布の庭で颯爽と活躍している青年たちと接するたびに、お母さんの人柄というものが偲ばれることがよくあります。
 決して、飾る必要はありません。失敗があってもいいのです。信念をもって、自ら決めた「希望の大道」を朗らかに進んでいく――そんな母親の生き方こそ、子どもに贈る最高の“財産”なのです。

1
9