Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第4章 思い出をつくろう  

「21世紀への母と子を語る」(池田大作全集第62巻)

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9  人間の子どもを救うための動物の会議
 池田 過分な評価に恐縮します。世界各国の子どもたちが、私の物語をとおして、何らかの希望や勇気をくみとってくれれば、これほどうれしいことはない。
 ワイルドスミス氏に、「子どもが心の奥底で求めているのは何でしょうか」と聞いた時、氏は即座に「それは、幸福です」と答えられた。忘れられない言葉です。
 童話といえば、ドイツのエーリヒ・ケストナーに、『動物会議』という有名な小説があるのを知っているだろうか。
 勝本 ケストナーといえば、大変に有名な児童文学作家ですね。
 池田 そのとおりです。『動物会議』は、第二次世界大戦直後に書かれた作品です。(高橋健二訳、『ケストナー少年文学全集』岩波書店、参照)
 ――人間たちが、たくさんの国に分かれ、戦争を繰り返している。戦乱のなかで親やきょうだいを失い、飢え苦しむ子どもたち。
 「これでは人間の子どもが、あまりにもかわいそうだ」と、動物たちが警告するが、人間は、何十回も会議を繰り返しているばかりで、埒があきません。動物たちは、人間の子どもを救うため、初めての「会議」を開きます。世界中から動物の代表が集まってくる。
 大曽根 全世界の動物が集まるというのは壮観ですね。夢にあふれた、子どもたちが喜びそうな光景です。
 池田 「国境をなくそう!」との動物たちの呼びかけを、人間の政治家は、はねつける。
 とうとう動物たちは、非常手段に出ます。
 「役に立たない両親からは親の資格をとりあげてよい」という人間の法律に従って、大人たちから、その資格を取り上げてしまうのです。すべての人間の子どもを一晩、自分たちの所に隠してしまった。
 子どものいない、物音ひとつしない世界で、途方にくれて悲しみに沈む大人たち。
 動物代表である、象のオスカールが人間全体に演説をする。
 「われわれの忍耐はつきた。われわれは、きみたちの子どもらを愛し、その将来を心にかけているのに、きみたちの政府は、きみたちの子どもらとその将来を、くりかえし、けんかや、戦争や、わるだくみや、欲ばりによって、危険にさらし、破壊している」
 勝本 鋭い言葉です。大人たちは、子どもを失って初めて、自分たちの愚かさに気づいたのですね。
 池田 子どものいない淋しさ。耐えられない苦しみです。とうとう大人たちは、動物たちの要求をのみ、地球から国境をなくす条約にサインします。そして、子どもたちは、それぞれの親のもとに帰ってくるのです。
 条約の最後の条文には、こうある。
 「子どもをほんとうの人間に教育する任務は、いちばん高い、いちばん重い任務である。真の教育の目的は、悪いことをだらだらと続ける心を許さない、ということでなければならない!」(同前)
 大曽根 教訓に満ちたお話ですね。真剣に胸に刻みつけなければならない言葉だと感じました。
10  「子どもたちのために!」と大人は団結を
 勝本 今、無邪気に遊ぶ子どもたちの姿を見て、その未来に思いをはせる時、いても立ってもいられないような気持ちになることがあります。
 先生が以前、教えてくださった牧口先生の叫びが胸に迫ってきます。
 「入学難、試験地獄、就職難等で一千万の児童や生徒が修羅の巷に喘いで居る現代の悩みを、次代に持越させたくないと思ふと、心は狂せんばかりで、区々たる(つまらない)毀誉褒財の如きは余の眼中にはない」(「緒言」、『創価教育学体系』第一巻所収)と。
 池田 牧口先生の、子どもを思う痛切なまでの愛情に心が打たれるね。「動物会議」の会場には、一つのスローガンが掲げられていました。
 それは、「子どもたちのために!」の一言だった。
 「子どもたちのために!」――すべての「母」の決意です。
 「子どもたちのために!」――この気持ちで、私も走っています。
 「子どもたちのために!」――この一点で、心ある大人たちは団結しなくてはいけない。
 手遅れになってはいけない。
 「われわれの社会は、子どもを可愛がりはしても、まだ十分に愛してはいない」――初めに紹介したチェコのマサリク大統領の言葉です。
 「悪いことをだらだらと続ける心を許さない!」と、立ち上がる時です。
 現代に生きる、すべての大人たちが、子どもに対する責任があるのですから。

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