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日蓮大聖人・池田大作

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創価中学・高等学校第22回、関西創価中… 「柔軟の人」「芯の強い人」に

1992.93.16 教育指針 創価学園(2)(池田大作全集第57巻)

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4  人生の「基準」は「自分自身」
 『白い汽船』には、先ほども紹介したように、「大角の母鹿」の美しい伝説が描かれている。キルギスの人々の祖先とされ、人間と自然をつねに温かく見守る、白く気高い、母なる鹿――。
 アイトマートフ氏は、宇宙を包み、「過去」と「未来」をもはるかに見わたす「壮大なる精神の力」を、「鹿」という一つの象徴に託したのかもしれない。
 宇宙と語る「精神の力」とは何か――。それは、その世界の中で、自分が何者であるかを教え示してくれる「羅針盤」であり、人生を誇り高く生きぬくための「根っこ」であり、「原点」ともいえよう。
 心にこうした誇りの「根っこ」をもたない人は、すぐに何かに左右され、現実の波間を漂う人生となっていく。
 この小説で、少年たちをいじめ、さらに鹿を殺してしまう陰険な森の巡視長は、まさにそうした人物として描かれている。
 彼は、皆が大切に守り伝えてきた「白い鹿の伝説」など忘れさってしまった。そして、自分の名誉欲が満たされない不満を嘆いてばかりいた。たしかな”原点”がなかった。
 つねに、遠い「町の人間」のことが、気になってしかたがない。「町にさえ行けたら――」「あっちじゃ地位をみて、自分をもっと大切にしてくれるだろうに――」と。
 「町の人間」をうらやましがり、嫉妬する卑屈な心。その一方で、少年や老人など弱い立場の人を見くだし、バカにする冷酷さと憎悪――。
 そんな、自分に、誇りの「根っこ」のない人間は、目がいつも落ち着かない。人より優れていると見られたくて、いつもあせっている。
 立場はどうであれ、人間としてこれほどの不幸はない。
 皆さんは、こうした卑しい、”貧しい心”の人間に、絶対になってはならない。また、そうした人々に負けてもならない。確固たる自分をつくることだ。”強く生きる自分”を、心に築いた人が勝者であり、賢者なのである。
 「心の大地に深く根を張った人生」か。それとも「人の目をたえず恐れて生きる人生」か――。人生の「基準」は、「自分自身」である。自身の「胸中」にこそある。
 その意味で皆さんは、「学園魂」という「根」を深く、また深く張りながら、何ものにもたじろがず、また惑わされず、わが青春を、人生を、大樹のごとく堂々と勝ち取っていただきたい。
 柔軟でありながら、しかも絶対にくじけないという「芯の強い人格」を、鍛えに鍛えぬいてほしい。(拍手)
5  たくましき「笑顔」で「正義」を貫け
 最後に「たくましい笑顔で堂々と生きぬけ」と申し上げたい。
 今回のインド訪間のさい、私は、マハトマ・ガンジーの直弟子の一人であるパンディー氏(ガンジー記念館副議長)とお会いした。
 現在、八十五歳の氏は、最長老のガンジー主義者である。白い髪、そして白い髭――高齢にもかかわらず、まことにかくしゃくとしておられた。「偉大な人は元気だ」と、私は心うたれた。
 バンデイー氏が、インドの独立闘争に身を投じたのは、ちょうど皆さん方と同じ十代である。氏のおじいさんは支配者イギリスヘの抵抗軍を組織し、のちに逮捕され、死刑になっている。一家の財産は没収。家族は追放され、住む家を求めてさまよい歩かねばならなかった。
 氏の祖母――おばあさんは若きパンディー少年に、祖父がどれほど勇敢であったか、権力がどれほど凶暴で理不尽であったかを、何度も何度も語りきかせたという。
 どんな目にあおうと、くじけず正義を語り伝える――「女性」の強さ、「母」の強さを象徴する話と思う。
 こうして、少年の心には悪を憎む正義の炎があかあかと灯されていった。志を受け継いで戦いをはじめた氏は、十六歳で投獄される。以来、計八回、じつに十年あまりを牢獄で送る。それでも氏は屈しない。少年時代からの信念を八十五歳の今まで、まっすぐに貫きとおしてこられた。
 世の中が曲がっていれば、正義の人が迫害されるのは当然である。迫害されないのは悪を黙認し、正義を曲げている証拠とさえいえる。
 ともあれ十六歳で投獄――それに比べれば、諸君のどんな苦労も大きなものではないと思う。
 ガンジーが生涯を終えた歴史の地にある、ニューデリーのガンジー記念館を訪問した折、そのパンディーご夫妻と懇談した(=1992年2月13日)。お会いした部屋には、ガンジーが微笑んでいる大きな写真が飾られていた。前歯の欠けたガンジーの表情は、どこかひょうきんで楽しそうであった。
 ガンジー記念館の方が語っておられた。
 「外国に紹介されたガンジーの写真は、どういうわけか、むずかしい顔をしたものが多いようです。しかし、じつはガンジーは、よく笑う人でした」
 「ガンジーは常々こう語っていました。『もし、私にユーモアがなければ、これほど長く苦しい戦いには耐えられなかったでしょう』と」
 笑顔の人は強い。正義の人は明るい。悪口も圧迫も、たくましい笑顔でおおらかに笑いとばしていける。反対に人の悪口ばかり言って、自分は何も価値ある行動をしないような人は、かわいそうな人である。あわれな人間である。自分がみじめになる。そして、こうした人々には、晴れやかな美しい「笑顔」がない。本当の愉快な人生を決して味わえない。
6  ”今”の努力が世界への一扉を
 皆さんは、これからの長い人生、苦しい時もあるにちがいない。心黒き人の言動にいやな思いをすることもあろう。しかし、たいへんな時こそ、反対に、明るい笑顔で周囲の人を元気づけながら、まっすぐに「前へ」また「前へ」と進んでいっていただきたい。「道」をそれたり、後退してはならない。
 さて、パンディー氏は大詩人タゴールのもとで学んだ。タゴールの学園は、武蔵野や交野のような緑豊かな地にあった。氏はその思い出を懐かしそうに語っておられる。「タゴールは日本や中国、アメリカ、ョーロッパなど世界の国々を旅しました。旅から帰ってくるとかならず、その地で出会った人々の話を私たち青年にしてくれました。そして愛すべき人々、正義の人が世界中にいることを教えてくれました。タゴールは私たちに『人類の兄弟意識』をあたえてくれたのです」と。
 タゴールの言うとおり、世界中に「愛すべき人々」がいる。「大いなる人間」が数多くいる。そして、皆さんを待っている。
 今は、さまざまな悩みがあると思う。その悩みと戦い、乗り越えながら、世界へと眼をむけ、心を大きく広げていただきたい。そして力をつけ、人格を磨き、平和の「大航海時代」に、はつらつと躍りでていただきたい。
 皆さんの無限に広がる前途に「栄光あれ」「勝利あれ」「健康あれ」「成功あれ」と祈りつつ、お祝いの言葉としたい。

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