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創価学園1 中学校・高等学校[昭和59年度]

教育指針 創価学園(1)(池田大作全集第56巻)

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9  関西創価中学・高等学校 第十回卒業式〈昭和60年3月15日〉
 柔軟にして探究心のある人に
 卒業式、本当におめでとうございます。とくに、本日の卒業式は、わが学園にとって、男女共学第一期生の、歴史に残るであろう卒業式でもあり、重ねて心からおめでとうと申し上げます。ご父母の皆さま方、本当にありがとうございました。また、校長先生をはじめ、教職員の皆さま方、本当にご苦労さまでした。
 私はここで、諸君の晴れの栄光の前途を祝し、昨今考えていることを三点申し上げ、はなむけの言葉とさせていただきたい。
 その第一点は「柔軟にして探究心のある人に」ということであります。
 諸君も知っていると思いますが、現代のイギリスの著名な学者にジェームス・E・ラブロックという博士がおります。彼は地球全体が、微生物から人間にいたるまで、生きとし生けるものはもちろんのこと、大気や海や、全大陸も含めて、一つの大きな生命体であるという「ガイア仮説」の提唱者として有名です。
 このような卓越した学説を打ち立てた博士は、特別待遇で悠々と研究をすることのできる、イギリスの国立医学研究所の椅子を捨ててしまった。そして彼は、イギリス南部の田園地方で、自分自身の独立の精神で研究を続けようとしていったのであります。
 この彼が、次のようなことを述べている。「大切なのは、博士号を取得することではなく、子どものような好奇心を持ち続けて、自分の頭で考え、自らの手を使って、それを検証していくことである」と。名声をかなぐり捨て、生き生きとして自分らしく、独立独歩の探究精神を貫いていくということは、私は、大変すばらしいことであると思っております。
 この生き方の原理は、科学や学問の世界だけではない。これからの諸君の人生万般にわたって、一貫して通ずるものが含まれていると、申し上げておきたいのであります。諸君はこれから、生きゆく過程で、現実の課題に直面したときに、社会の中であれ、自然の中であれ、人生そのものの生き方のなかであれ、つねに勇気と信念とをもって、思いきり探究心の翼を広げぬいて、自分という人間の中に、宇宙よりも広大で豊かなものを見いだしていっていただきたい。そして、すべての真実というものを、明確に、鋭く見極めていける人間になっていただきたいのであります。
 第二点は「小さなことを大切にしていける人に」ということであります。
 新しい時代をつくる、新しい人生を歩みゆくといっても、その第一歩は、すべて身近な、小さな積み重ねを粘り強く続けていくところにのみ、確固たる成果が築かれていくことを、銘記していただきたいのであります。
 有名な『星の王子さま』の作者サン=テグジュペリの作品に『夜間飛行』という小説があります。これは、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスとヨーロッパを結ぶ、夜間郵便飛行機の総責任者の一夜を描いた物語です。多くの人々の大切な手紙を積んだ飛行機が、無事に、その目的地に到着するまでは、一晩中、まんじりともせず、細心の配慮をもって臨んでいったというものであります。そして彼は、こう独り言をいいます。「なげやりな態度をとって、せっかく軌道に乗った出来事を成り行きにまかせておくと、不思議なことに事故が生まれる。まるで、わたしの意志だけが、機体を飛行中の故障から救い、輸送中の郵便物を嵐による遅延から救っているとでもいうようだ」(山崎庸一郎訳、『サン=テグジュペリ著作集2』所収、みすず書房)と。
 このように、すべての物事が、順調にスムーズに運んでいくためには、大なり小なり、こうした陰での言い尽くせない辛労があるものです。
 さらに、この小説の中に「どんな群衆のなかにも、日立たないながら、すばらしい使者となる人間たちが存在する」(同一りという言葉があります。私の長年の体験からしても、まさにこの言葉は真理であります。長い長いこれからの諸君の人生を築きあげていくためにも「小事が大事である」ということを忘れずに、また、陰で働く人たちの苦労が、鏡に映すようにわかる聡明な人であっていただきたいのであります。
 第三点は「故郷をもった人は強い」ということであります。
 善きにつけ、悪しきにつけ、故郷を思い出すのが、人間の心情でしょう。錦を飾って故郷に帰るとか、幼き日の故郷は母のごとしとか、まことに故郷とはありがたいものであります。
 そうぐうこれからの諸君の人生は、決して順調なときばかりではない。さまざまな困難や悲しみに遭遇する場合も多くあるにちがいない。しかし、そのときに諸君は、青春の故郷、学びの故郷がこの学園であることを思い出し、またふたたび、凛々しく勇気を湧きいださせて生きぬいていただきたいのであります。
 マーガレット・ミッチエルの『風と共に去りぬ』の最終章は、すばらしい。主人公であるスカーレットは子どもを失った。夫とも離別した。その悲嘆と絶望のなかで、毅然と顔を上げて、「みんな、明日、タラで考えることにしよう。そうすれば、なんとか耐えられるだろう」(大久保康雄・竹内道之助訳、新潮文庫)といって、凛々しく起ち上がったのであります。タラとは、彼女の故郷であります。諸君も行き詰まったならば、「この交野に来て考えよう」という心のリズムを忘れないでいただきたいのであります。
 ともあれ、私は、諸君がいかなる状況になろうとも、諸君の最大の味方であります。それが、創立者としての私の生涯変わらざる信条であります。どうか諸君が、二十一世紀への賢者として、堂々たる大道を闊歩しゆかれんことを心よりお祈りし、私のあいさつといたします。
10  創価中学・高等学校 第十五回卒業式(メッセージ)〈昭和60年3月16日〉
 勇気と希望と信念の人生たれ
 晴れやかな卒業式、本当におめでとうございます。
 私は大阪におり、残念ながら出席できませんが、諸君の栄光の旅立ちに、ともに肩を組みながら参加しているつもりで、このメッセージを送ります。
 私は、二十一世紀をめざして進む皆さんに、勇気と希望と信念の人生であれ、と念じてやみません。
 それには、一日一日を焦らず、堅実に勝ち取っていく以外にありません。
 ある作家は「人の一生はながいものだ、一足跳びに山の頂点へあがるのも、一歩、一歩としっかり登ってゆくのも、結局は同じことになるんだ、一足跳びにあがるより、一歩ずつ登るほうが途中の草木や泉や、いろいろな風物を見ることができるし、それよりも一歩、一歩を慥かめてきた、という自信をつかむことのほうが強い力になるものだ」(山本周五郎『ながい坂』新潮社)と述べております。
 どうか皆さんは、順風のときも、スランプや劣等感に悩むときも、大地にしっかりと足を踏まえ、きょうの一日を大切にしていってください。そこから、かならずや「千里の道」に通じゆく力強い「一歩」が刻まれていくにちがいありません。身も心もひとまわり大きく成長し、若鮎のごとくはつらつと躍る皆さんと、またお会いする日を楽しみにしつつ、私のお祝いのメッセージとさせていただきます。

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