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日蓮大聖人・池田大作

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創価学園1 中学校・高等学校[昭和51年度]

教育指針 創価学園(1)(池田大作全集第56巻)

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14  ルソー、デカルトの青春時代
 過去にすぐれた業績を残した人物をみてみますと、やはり若いときに大変な苦労のなかで、真剣に学んでいます。皆さんもよくご存じのフランスのジャン・ジヤック・ルソーは、近代を開いたもっとも偉大な思想家の一人として、今日もその作品は世界的に広く読まれていますが、彼の父は時計師で、当時の下層市民であり、生まれてすぐ母親を失っています。また少年期に父親が失踪して、普通の家庭生活を味わうことなく成長しています。
 ルソーは皆さんの年齢であったころは、時計彫刻師の弟子となって、酷使と虐待のなかで生活しています。彼はこの生活のなかで、社会というものを意識し、不正というものへの激しい怒りを育てていったといわれています。彼は後に、有名な『エミール』『社会契約論』等を著し、人間の尊厳を訴えていますが、その遠因をたどれば、十代後半の数年間の生活のなかに、その種子を見いだせるのであります。
 また、近世哲学の祖といわれているデカルトの場合も、生まれて間もなく母を失っています。彼は十歳のときに、当時、ヨーロッパ一の有名校であったラ・フレーシュ学院に入学し、そこで八年間勉強し、十八歳のとき卒業しています。この期間に、彼は、ギリシャ、ローマの古典文学やスコラ哲学など、当時のありとあらゆる学問を学びますが、彼はその結果、そうした学問が何の役にも立たないことを知って、深く失望しています。しかしながら、この時期に、後年における学問追究の基本的姿勢が芽生えたことを見落としてはならないのであります。
 そして彼は、失望のままに終わるのではなく「世間という書物」から学ぶのだと、ヨーロッパ各地を回り、行動と実践のなかで真理を求め続けています。「われ思う、ゆえにわれあり」という言葉で有名な、そしてその後のヨーロッパの思想の転換点ともなった『方法序説』が生まれたのも、この時期において、豊かな基盤がつくりあげられていたからであります。
 ルソーも一時期には世をすねた時期があり、デカルトには深い失望の時期が、皆さんと同じ年齢のころにあったようですが、しかし、そのような悩みが多く振幅の大きい時期は、また同時に自分自身というものが形成され、浮かび上がってくる大切な時期でもあります。したがって、そうした振幅のなかに巻き込まれて、自分自身を見失うことなく、また落胆することなく、そこに浮かび上がってくる自己の姿というものを見失わずに、現実に挑戦していっていただきたい。
15  現実の壁に挑戦
 皆さん方は、今後かならず社会という次元において、あるいは自己の宿命という次元において、さまざまに立ちふさがる壁というものを感じることがあると思います。そしてその壁は、どうしようもなく厚い、また高い壁に感じられる場合があります。しかし、それに負けないでいただきたい。その壁というものは、後になってみれば、なんでもない場合がほとんどです。
 こういう話があります。それは少年時代に故郷を出て、十年後、二十年後に大人になって帰ってみると、あれほど広かった川が三メートルほどの小さな川であり、広場同様に遊び回った大通りが、やっと車がすれ違う狭い道にすぎず、町全体が、いかにも小さくなってしまっているというのです。これは何も川や道や町がちぢんだわけでもなんでもない。少年時代と大人になってからとでは、判断の基準が大きく変わってしまっている結果にすぎません。
 同じように、青春時代の悩み、壁というものも、やがては小さなものにすぎなかったことが、わかるときがくるものです。もちろん、そういう壁をいいかげんに考えていいということではありません。どのような壁であっても、はい上がってもらいたい。たとえ落ちても、もう一度立ち上がって、はい上がっていくならば、かならず乗り越えられるものです。手に負えない壁のように見えているにすぎない、ということを申し上げたいのです。
 どうか、これからの長い人生にあって、いろいろなことはあるでしょうが、いじけたり、逃げの人生になったりすることなく、勇敢に、たくましく自分自身に挑戦してもらいたい。そして、一人ももれなく、学園桜の大樹となり、お父さんやお母さん、そして妹や弟たちをはじめ、お世話になった方々を、大きくその桜でつつんでいただきたいことを、お願い申し上げたい。
 ともかく、地によって倒れた者は、地によって立ち上がるしかありません。自分らしく、いかなる人生を生きるのも結構ですが、最後に人生の卑怯者、敗北者とだけはいわれることのないように、学園魂だけは忘れず、また、その学園の誇りを担った諸君たちであるよう、心よりお祈り申し上げ、万感をこめて、諸君の新たな門出への祝辞とさせていただきます。

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