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日蓮大聖人・池田大作

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大衆の中で展開された仏教運動  

講義「諸法実相抄」「生死一大事血脈抄」(池田大作全集第24巻)

前後
4  ある仏教学者によると「釈尊は仏教を説かなかった」という極端な説もあるぐらいであります。もちろん釈尊が仏教を説いたのは当然でありますが、この一見矛盾する言葉も、ある意味で含蓄に富んだ言葉であるといってよい。八万法蔵といい、五時八教と聞くと、精密に体系だてた教理を思い浮かべ、釈尊もそのカリキュラムにそって、説法したかのように受け取りがちであります。しかし釈尊の説法は、貧苦にあえぐ庶民への激励であり、病に苦しむ老婦人を背に負わんばかりの同苦の言葉であり、精神の悩みの深淵に沈む青年への温かな激励の教えであった。差別に悩み、カースト制度に苦しむ大衆の側に立った火のような言々句々が、その一生の教化を終えてみれば、八万法蔵として残っていたということでありましょう。それは、経文が徹底して問答形式で説かれていることに、象徴的にあらわれている。庶民との対話、行動の中に釈尊の悟りの法門がほとばしりでていったのであり、それが経典としてまとめられていったのであります。
 日蓮大聖人も、また同じ立場を貫かれております。いつも申し上げていることでもあり、また昭和五十一年十月の本部総会でも述べましたので、詳しくはお話しいたしませんが、あの膨大な御書も、生涯、激動の日々の中、民衆一人一人との対話を続けられ、朝にタに救済の手をさしのべられた結晶であります。大聖人は、決して書斎に閉じこもって御書をおしたためになったのではありません。戦いながら書き語り、書き語られながら戦われたのであります。
 仏教と聞けば、山野にこもり、静的なものと考えがちでありますが、その発生からすでに実践の中に生き、民衆の中で生き生きと語り継がれてきたのが、その正統な流れであることに剖目したいのであります。
5  信行学の要諦を教示
 さて「諸法実相抄」は、日蓮大聖人みずから、この御抄の追伸のととろに「ことに此の文には大事の事どもしるしまいらせ候ぞ」、また「此の文あひかまへて秘し給へ、日蓮が己証の法門等かきつけて候ぞ」と明記されておりますように、比較的短い御述作ではありますが、仏法の肝要がことごとく集約してあらわされております。
 執筆せられた文永十年五月といえば、法本尊開顕の書であり、受持即観心の、末法仏道修行の要諦を示された「観心本尊抄」を著された翌月であります。本尊抄が、文永十年の四月二十五日、本抄が翌五月十七日と記されております。
 したがって内容も、法華経迹門、在世衆生得脱のカギとされた、方便品の「諸法実相、十如是」の文から説き起こされて、法華経哲理の真髄を示し、その当体が妙法蓮華経、即、御本尊であることを教えられております。これは、法本尊の意義を明かされたと考えられます。
6  ついで、この法華経の極理を明らかにし、かつ弘めるべき人こそ、地涌の菩薩の上首上行であることを示され、それを、まさに日蓮大聖人御自身が実践してきたと述べられるのであります。すなわち、一往、外用の辺から言えば、法華経弘通の上行菩薩の再誕であり、再往、内証の辺から言えば、末法救済の大法を建立する御本仏であり、久遠元初の仏であることを、暗示されているわけであります。これは、人本尊を明かされたと考えてよい。
 このように、人法両面から、末法一切衆生の尊敬すべき根本を明かされたことは、人本尊開顕の書たる「開目抄」、法本尊開顕の書たる「観心本尊抄」の結論が、ともに、この一書の中に包含されていると、私には拝せられるのであります。
 しかも、後半においては、未来広宣流布の間違いないことを予言され、末法万年にわたる仏道修行の要諦として、信行学の在り方を教示されて結ばれている。すなわち末法の仏法の正体が、その甚深の法体、修行のすべてを網羅して、しかも簡潔にあらわされているのが本抄なのであります。
 ゆえに、日蓮大聖人の原点に帰ることを根本精神とする我が創価学会は、数ある御書の中でも、特にこの「諸法実相抄」を根幹として、自己の信心の研鑽と、あらゆる指導、活動に取り組んできたのであります。
 初代会長牧口常三郎先生も、常に本抄をとおして指導されたとうかがっております。第二代会長戸田城聖先生が、法華経は別にして、まず、私達数人に講義された御書は「諸法実相抄」でありました。私もまた、この講義を受講した一人であります。
 更に、高等部に対し、また本部職員の代表に対し、私はいくたびか、この「諸法実相抄」を講義してきましたが、拝するたびに、法門の深さに驚嘆し、大聖人の烈々たる気迫に胸をうたれる思いがいたします。
 創価学会創立四十六周年を記念して、再び私は、今まで何回となく講義したものに、新時代に相応して加筆添削をして掲載させていただくことにいたしました。
 以上、前置きとして申し上げておきます。

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