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日蓮大聖人・池田大作

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革命と良心の葛藤劇 ユゴー『九十三年』

「若き日の読書」「続・若き日の読書」(池田大作全集第23巻)

前後
9  ユゴーは、革命と内乱の渦巻く十九世紀に生き、絶えず「未来のこと」を考えていたといわれる。とくに「未来」の象徴としての子どもを大切にしたのは、その一例である。たとえば『九十三年』でも、ラントナック侯爵が最後に三人の幼児を救い出したシーンについて、戸田先生は言われたものである。
 「あの三人の子どもは、作者にとって『未来』の象徴だった。だから、救いだすように設定しであるのだ。子どもは未来の宝だ。未来からの使者だと思って大事にしなさい」
 ユゴーは、フランス文学に初めて「子ども」を主役として登場させた作家であるといわれる。子どもに深い愛情をそそいだ詩人として、あまりにも有名だ。
 かつての亡命の地、ガーンジー島で『九十三年』を執筆したのは、ユゴー七十歳の時だった。
 「そうだ!」「子供たちに囲まれて食事をするなんて楽しいだろうなあ」──そう思って週に一度、島の貧しい子どもたちを集めてご馳走会を開いた。『九十三年』のなかでも三人の幼児の生態が見事に描かれているのは、そのとき無邪気な子どもたちと遊んだ際の観察が活かされているからである。
 作者は『レ・ミゼラプル』で貧しい人びとへの愛を書いたが、この『九十三年』では未来に生きる子どもらへの愛を描きだしたといわれる。彼は七十五歳の時、『よいおじいちゃんぶり』と題する詩集まで出版した。
 ユゴーは、老いてなお未来を見つめる人だった。飛行船を歌った「大空」という詩では、未来の世界共和国まで構想していた。
10  大空を使って人間のために、未来の世界共和国の首都を作り、
 広大無辺な空間を使って思想をつくりながら、
    船は廃止する、古い世界の掟を。
 船は山々を低くし、塔や城壁を無用にする。
 このすばらしい船は、地上をのろのろと歩く諸国の民を参加させる、
    天翔ける鷲たちの集いに。
11  私は一九八一年六月に訪仏の際、ポエール上院議長の案内でフランス上院内の「ユゴーの部屋」などを見学した。そのとき、ポエール議長は私に、次のように語りかけた。
 「ユゴーは一八四八年にヨーロッパ統一ということを考え始めています。ヨーロッパの各国が互いにいがみ合っていた当時にあって、‥‥それぞれが互いに理解しあっていくことを夢みたということは、たいへんにすばらしい」
 ユゴーは、まさに未来を見つめる詩人であった。ちなみに、私がユゴーの「文学記念館」開設への着想を得たのは、このポエール議長との会見が縁となった。
 ユゴーには、早くから「一つの欧州」への願いがあった。それは国家の壁、民族の壁、そして人間の心の壁を打ち破る挑戦でもあった。ユゴーの夢みた「ヨーロッパ連合」の理想が、今や現実化しようとしている。

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