Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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青春のロンと友情 ヘルダーリン『ヒュぺーリオン』

「若き日の読書」「続・若き日の読書」(池田大作全集第23巻)

前後
9  さて、われらの愛すべきヒュベーリオンは、精神の調和と女性美の極致ともいうべきディオティーマと相識り、熱烈な恋におちいる。彼は、夢とうつつのなかで、つかのまの平和の喜びにひたる。
  
  そうだ、人間は恋するときには、一切を見、一切を浄化する一つの太陽である。恋せぬときには、人間はくすぶれる豆ランプのともっている薄暗い部屋である。
  
 ヒュペーリオンは自由の戦士でもあった。祖国の独立と、自由と共和のために、ふたたび立ち上がったアラバンダらの要請に応え、雄々しくも新たな戦線に従軍していく──。
 「愛は世界を生んだ。友情はまた世界を生れ変わらせるであろう」──ヒュペーリオンは、こうして愛と友情の昇華と調和を図ろうとする‥‥。
 彼はチェスマの戦いに参加したが、運命の女神はこの青年に対して、あまりにも峻烈なる試練を課した。ヒュペーリオンは負傷して、人事不省におちいり、ディオティーマは若くして帰らぬ人となったのである。
10  小説『ヒュぺーリオン』の結末は、詩人が日ごろ愛したギリシア悲劇の世界を、そのまま十八世紀のギリシアに移していった感がある。作者自身も、荒れ狂う、怒涛さかまくドイツの革新的な雰囲気を、胸深く呼吸して生きた。やがて晩年には、その精神の薄明のうちに悲劇的な生涯を閉じたという。
 それから百年後の十九世紀後半──ヘルダーリンと同様の精神の軌跡をたどり、やはり悲劇の運命に遭遇したニーチェ──この二人の精神の薄明は、何に由来するものであろうか。その疑問に私なりの解答を得たのは、しばらくして信仰の道に入った以後のことである。

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