Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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ある農家の主婦  

「私の人物観」(池田大作全集第21巻)

前後
4  おかみさんは納屋の戸を開け、自家食糧のイモの山から分けてくれた。六貫目ほどもあったろうか。リュックサック一杯になった。そして「また、いつでもいらっしゃい。あんたのことは特別に覚えておくからね」の言葉に、私は二週間ほどしたらおじやましたい、と甘えてしまった。値段は一貫目十円とのことだったが、十二円の代金で払ってきたことを覚えている。
 約束どおり、その月のうちに再び幕張の農家を訪れた。おかみさんは待っていたかのように快く迎えてくれ、このときもカマス一杯のイモを持たせてくれた。が、きりもなく甘えるわけにはいかなかった。それに、わが家に蔵しであった海苔が、粉や米との交換に役立ったこともあって、買い出しはそれ以後、沙汰やみになった。
 買い出しイモは、母がふかして、皆で食べた。栗のようにホクホクした農林一号のおいしかったこと、そして弟妹たちの嬉しそうな顔が、忘れられない。イモの温かさには、あのおかみさんの真心が染みているように思えた。買い出し人が殺到する農村にあって、強欲さをいささかも感じさせない、優しい、お母さんのようなお百姓さんであった。子供がない、と言っていた。ありとすれば、自分や兄たちと同じ年ごろであったかもしれない。あるいは、戦争で失ったのだろうか――。
5  サツマイモが出回る季節になった。
 私の机の上には、ふかしたての太いイモが皿に盛られている。ふと、あの幕張の田園に息づく、おかみさんの破顔一笑が脳裏に映じてくる。

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