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日蓮大聖人・池田大作

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夫婦の溝は自分の心の中の亀裂から生じる…  

「婦人抄」「創造家族」「生活の花束」(池田大作全集第20巻)

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6  なにも風波がないのが幸福だろうか?
 幸福をしみじみと実感するということは、ちょうど普段は太陽の有り難さがわからなくとも、長い間地下に潜ったりした果てに地上に出て太陽の偉大なる恩恵をしみじみと味わうのと共通するものがある。
 固定、安定してなにも風波がないのが幸福かというと、決してそうではない。波乱と苦悩に遭い、それらを夫婦で共に乗り越えたという喜びの共有が、二つの心を固く結びつけるのである。
 新婚からあたかも「慣性の法則」に従ったようななんの変哲もない生活は、幸福のようであって、むしろ不幸である場合が多い。大事なことは、なにかの波乱に直面した時に、愚痴めいたり、互いに非難しあったりしないよう心がけることである。
 左右を向いていがみあったり、後ろを向いて愚痴をこぼすのではなく、苦境のなかにあって常に前を向き、自分には何をすることができるか、をまず考えていくことが賢明な生き方であろう。
 社会のさまざまな悲劇や家庭の亀裂、親子の断絶――それは、じつは自分の心の中の亀裂から生じてくることを忘れてはならない。
 また、私は人生にはすがすがしい笑いがなくてはならないと思っている。さわやかな笑いは、まさしく“家庭の太陽”である。また人の喜びを心から喜んであげられるゆとりがほしい。そうした生き方のなかに一日一日すがすがしいなにものかが残っていくものである。人間のウラばかりを見ていこうとする生き方は、しょせん、ぎすぎすした暗い陰鬱な世界を広げるばかりであり、自身の敗北につながっていく。
 人間は感情の動物である。常に心は動いている。その微妙なニュアンスのなかに人間の現実がある。したがって、身近なところの小さなことを無視してはならないと思う。ささやかななかにも真心ある心づかいが、自分を取り巻く世界を一変させるのである。
 たとえば疲れきって帰ってくる夫にとって最大の喜びは、なんともいえぬ心の憩いである。この憩いの場を提供してあげられる妻の賢明さが大切であると思う。また子供にとって大切なのは、親の姿が鏡のごとくそのまま映しだされるということである。わが子をわが子と思わず、社会の子と思って、むしろ一個の尊い社会人を育てているのだという自覚に立つべきではなかろうか。
 そのためにも、相手のできるだけ良い点を見いだす努力をしてあげることである。人間というのは、いったんこうと決めると、それが手カセ、足カセとなって一方的な思考におちいってしまい、そこからなかなか抜けられないものである。いわゆる“きめつけ”である。決定的破綻というものは、意外とこの“きめつけ”から始まる場合が多い。これを克服するためには、常に自分の側から相手を見るのではなく、相手側から自分を客観視してみることを習慣化していく努力とゆとりと幅の広さとが必要なのではないだろうか。
 結局、大事なことは、常に自分を内なる我執と嫉妬と憎悪と戦う方向にもっていくよう努力する以外にない。それは同時に、どんな人間にも長所と短所があることをわきまえることになるからである。
7  生命の充実感のみが幸、不幸の尺度
 最後に、私の恩師戸田城聖先生が昭和十三年にある親戚の方に送られた手紙の一節を紹介させていただきたい。
 それは「人生は不幸なものではない。居る所、住む所、食う物、きる物に関係なく人生を楽しむことが出来る。人生の法則を知るならば、人生は幸福なのだ。何事も感情的であるな。何事も畏れるな。何事も理性的、理智的であれ。そして、大きな純愛を土台とした感情に生きなくてはならぬ」というものである。
 恩師が三十八歳の時、まだ戦前の時代の書簡である。すでに牧口常三郎初代会長とともに信仰の道に入っていた戸田先生は「人生は不幸なものではない」との揺るぎない確信をもたれていた。この不抜の信念は、戦時中、軍部政府に弾圧されて二年間の獄中生活をくぐりぬけた時も、なお変わることはなかったのである。それは、なによりも「人生の法則」を胸中の奥深くに据えていたことによる。この法則とは、言うまでもなく仏法への信仰である。しかし、信仰のいかんにかかわらず、ここには人生のうえでの重要な示唆があると思えてならない。 「居る所、住む所、食う物、きる物に関係なく人生を楽しむことが出来る」──現代の人びとのなかには、衣食住を中心とする物質的な幸福や瞬間的な享楽を追い求めている傾向が強い。しかし、恩師にとっては、それらは外的条件にすぎなかったといってよい。ただ、生命の充実感のみが幸、不幸の尺度であることを、恩師は深い信仰のうえから達観されていたのである。
 私は、人生の極意とは、このあたりにあるのだと信じている。どんな外界の風波にも動揺することなく、人間を愛し、人生を愛し、いかなる苦境にあっても天空に向かって信念の叫びをやめなかった恩師の偉大な「純愛」の生涯は、混迷の世相に生きぬこうとする人びとにとって、根本的な指標になるとさえ、私は思っている。
 今後ともに風波の高まりゆくであろう日本の社会を生きゆく主婦の皆さん方が、勇気をもち、聡明なる英知をフル回転させつつ、盤石な人生、幸せな家庭を築かれることを心から祈りたい。

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