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日蓮大聖人・池田大作

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沖縄のこと・ダ・ヴインチのこと 井上 …  

「四季の雁書」井上靖(池田大作全集第17巻)

前後
9  年頭の沖縄の旅は、山本健吉、遠藤周作、北杜夫、福田宏年といった親しい人たちといっしょでしたので、少ない日数でしたが、なかなか充実したものになりました。
 私の場合は、二度目の沖縄行きで、十六年前の沖縄の印象はまだ戦争の傷跡が生々しく残っている暗い島でしたが、こんどは南部にも北部にも立派な舗装道路やバイパスが走り、たいへん明るい観光の島になろうとしているかのような印象を受けました。観光の島と申しましたが、本土から離れていることが幸いして、現在はもちろん、将来も、観光客が渦巻く本土の騒がしい観光地にはならないであろうと思いました。戦争による悲劇を到るところに刻みつけている沖縄は日本の特別な島であり、同じ観光の島であるにしても、平和への祈りを底に沈めた静かな観光の島になって貫わなければなりません。
 一月の初めですのに、山地には緋寒桜が咲き、里近くには菜の花が咲きかけておりました。毎日のように海岸線に沿ってドライブしましたが、海の色はきれいでした。沖縄の海は七色に変ると言われておりますが、海洋博覧会場附近の珊瑚礁のある海などは、まことにそのような海であろうと思いました。
 滞在四日のうちに、今帰仁なきじん城跡、座喜味ざきみ城跡、安慶名あげな城跡、勝連かつれん城跡、中城なくぐすく城跡といった城址を、作家の大城立裕氏や県立沖縄史料編集所員の高良倉吉氏、海洋博沖縄館館長の中山良彦氏たちに案内して頂きました。いずれも造築年代ははっきりしていませんが、十五、六世紀頃戦火の中に亡んだと伝えられ、現在発掘調査が為されつつある城跡であります。
 どの城址にも曾て神が祀られてあった聖域と称されている場所がありました。中には七カ所も聖域を持つ城もありました。
 沖縄の古い歴史については全く無知ですから、独断的なことしか言えませんが、幾つかの城跡を経廻ってみますと、往古の沖縄は到るところに神が祀られていて、まさに祈りの島とでも言うべき特殊な島であったような思いを持ちました。城址ではありませんが、琉球第一の霊地とされている斎場御せいふあうたきにも行ってみました。神がそこから来ると信じられていた久高くだか島への遥拝所も遺っておりました。
10  沖縄の旅から帰りましてから、ずっと寒い日が続いております。しかし、今日、庭を歩いてみますと、一本ずつある紅梅も、白梅も枝々に小さい米粒大の芽を持っているのに気付きました。赤城つつじも枝という枝の先端に芽をつけております。この方は紅梅や白梅よりずっと大きくなっております。すでに植物たちはやがて来る春を迎える準備を始めているのであります。
 と申しましても、春はまだ遠く、全国的に感冒が流行しているようであります。どうぞご自愛の毎日でありますように。
 一九七六年一月二十三日

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