Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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ゴルバチョフに語られた寓話 チンギス・アイトマートフ

「大いなる魂の詩」チンギス・アイトマートフ(池田大作全集第15巻)

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5  二つ目の運命。それは受難の厳しい道である、と予言者は権力の極みにいる為政者に告げた。
 「なぜならば、為政者よ、あなたが贈った『自由』は、それを受け取った者たちのどす黒い、恩知らずの心となって、あなたに返ってくるからです。そういう成り行きになってしまうものなのです。
 では、どうして、なぜ、そうなるのか? なぜ、そんなばかげた不条理がまかり通るのか? 逆ではないのか? どこに正義や理性はあるのか? この問いに答えられる者はいません。これは、天国と地獄の不可思議な秘密なのです。これまでもずっとそうであったし、これからも変わらないのです。
 あなたも同じ運命に襲われるにちがいありません。自由を得た人間は隷属から脱却するや、過去に対する復讐をあなたに向けるでしょう。群衆を前に、あなたを非難し、嘲笑の声もかまびすしく、あなたと、あなたに近しい人々を愚弄することでしょう。忠実な同志だった多くの者が公然と暴言を吐き、あなたの命令に反抗することでしょう。人生の最期の日まで、あなたをこき下ろし、その名を踏みにじろうとする、周囲の野望から逃れることはできないでしょう。
 偉大な為政者よ、どちらの運命を選ぶかは、あなたの自由です」
6  為政者は、その時、流浪の人に答えた。
 「七日間、私を庭で待っていてくれ。私は熟考しよう。七日後に、もし私がお前を呼ぶことがなければ、行ってしまうがいい。自分の道を行くがいい……」
 このような古い寓話を、私はゴルバチョフに語ったのであった。彼は表情を変え、黙していた。私は早くも自分のやったことを後悔し、挨拶をして帰ろうとした。その時、彼は苦笑しながら、口を開いた。
 「言わんとすることはわかっています。出版予定の本の話だけではありませんね。しかし、七日間も私を待つ必要はありません。七分でも長すぎるくらいです。私はもう選択をしてしまったのです。どんな犠牲を払うことになろうとも、私の運命がどんな結末になろうとも、私はひとたび決めた道から外れることはありません。
 ただ民主主義を、ただ自由を、そして、恐ろしい過去やあらゆる独裁からの脱却を――私がめざしているのは、ただこれだけです。国民が私をどう評価するかは国民の自由です……。今いる人々の多くが理解しなくとも、私はこの道を行く覚悟です……」
 ここで、私はその場を辞した。

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