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日蓮大聖人・池田大作

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2 日本は何をなすべきか  

「21世紀への人間と哲学」デルボラフ(池田大作全集第13巻)

前後
6  デルボラフ たしかに、伝統精神は近代日本人の心情のなかでいまなお生きつづけていますね。そこで、ヨーロッパ人が日本の家を訪問すると想定してみます。
 彼は、まず靴をぬいで座敷にあがり、着物を着た家の人たちと向かいあい、脚が曲がればの話ですが胡座をかいて畳に腰をおろし、最後に味覚だけでなく視覚でも味わう日本料理のもてなしを受けることになります。彼はこの変化にみちた印象のなかに、日本的伝統のなまなましさを感じとるはずです。
 もちろん、この種の日本的作法というのは、なお意識的に保護され、とりおこなわれている表面的なものかもしれません。むしろ、神社や寺院にこそ、日本人のほんとうの姿を見ることができるのではないでしょうか。
 私も何度か日本へ行っていますが、伝統崇拝者や極端な近代主義者はいるとしても、私を案内してくれた日本人のなかには伝統と近代性の軋轢に悩んでいるような人には、一度も出会いませんでした。ただ、ときどきテレビに映るような、人間のいない完全にロボット化された工場は、日本の超近代化志向の一端ではないか、とつねづね思っております。その設備はたしかに技術的にはすばらしいものですが、人間的・社会的に悪影響があるのではないかという点で問題があります。伝統と近代化の両面について、ともにその権利を認めながら調和をはかるべきであるということは、もっともだと思います。なかでも、非常に複雑化した近代世界にありながら、過去の精神的基盤が完全には崩壊しなかったのは、宗教への積極的なかかわりのおかげでしょう。
 日本でかくも成功した伝統文化と近代化の融合の経験が、まだ発展途上にある民族にとって、どの程度役に立つかは、一概にいえません。ただ、容易なことではないはずです。というのは、これら民族の文化的構造は、それぞれに異なっており、近代化という挑戦についても、異なった仕方で対応していくことになると思われるからです。
7  池田 たしかに、日本が成功したことが他の国にとっても、そのままで参考になるとはいえません。しかし、より良い社会を実現しようとめざす人々にとって、一つの国の成功は精神的に大きな希望をあたえます。
 私は日本が理想的なかたちで近代化に成功したとは思っていませんし、その近代化の過程では、近隣のアジア諸国への侵略や国内における弱い立場の人々への圧迫など、幾多の誤りもおかしました。また、現在も産業公害など深刻な問題をかかえています。大切なことは、そうした失敗の歴史をも冷静に見つめ、それをくりかえさないようにすることであり、そのためには、人的交流をよくし、正しい実態を開発途上の国々に伝えることが必要ではないでしょうか。

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