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日蓮大聖人・池田大作

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第二章 「生命」の永遠性とは  

「生命と仏法を語る」(池田大作全集第11)

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7  「老化」のナゾ
 ── また、ちょっと話題を変えますが、「生」をうけたもの必ず老いる。人間の老化の現象を、どう考えたらいいのでしょうか。
 屋嘉比 医学が急速度に進歩しても、たしかに、「老化」という問題は、まだまだ、ナゾにつつまれているといわざるをえませんね。
 ── 少々、顔のシワが伸ばせても(笑い)、老いてますます矍鑠という人がいても、根本的にはどうしようもないことですから。(笑い)
 池田 生きゆくための重大問題です。
 「老化」と「死」という問題は、永遠に人間をして宿命的に支配していくものだ。
 屋嘉比 ですからいま、「老年医学」が盛んに研究されています。各地の大きな病院には「老人科」があります。
 池田 老化現象はだれもが実感できる。だが、その解決策となると、現代社会に残された最大の難問のひとつといえるのでしょう。
 心理学、社会学、政治や経済なども含め、総合的にとりくむべき問題です。
 屋嘉比 年をとっても、私はこのとおり元気だ、という人もいます。しかし、あるていどの年齢に達すると、精神機能も低下し、肉体的にも、そこかしこおかしくなってきます。
 池田 でしょうね。いわゆる加齢にともなう生理的な変化の現象ですね。
 屋嘉比 たとえば年をとるにしたがい、身体全体の組織から、しだいに水分が減っていきます。
 池田 躍動する若さを「みずみずしい」と表現します。  誕生したときの子供の体重の八〇パーセント前後が、  水分の重量だと聞いたことがありますが……。  
 屋嘉比 そうです。ところが、成人では六〇パーセントに減り、老人になると、個人差はありますが、ほぼ生まれたときの三分の二になります。
 ── 樹木のように枯れていくのですか。(笑い)
 屋嘉比 また、「人は血管とともに老いる」とよくいわれるように、年とともに全身の動脈硬化が進みます。さらに、全身の生理的機能が徐々に低下していきます。
 よく中年以降、目が遠くなったという人がいますが、これは医学的には眼球の水晶体が硬化してくるためです。これが、いわゆる老眼です。
 ── よく、目とその周辺には、年齢が出る、といいますが。
 池田 人生のそれなりの域に達した人の顔つきというものには個性がある。
 それは、目の輝きとか、目の表情が個人差をつくりだすからだ、という人もおります。ですから、目をかくすと個々の判別がむずかしくなるという人もおりますね。(笑い)
 ── だからサングラスが必要になるんですね(笑い)。目のまわりの老化が、いちばん老いを目立たせることになりますから……。
 屋嘉比 いや、サングラスは、目の老化を防ぎます(笑い)。紫外線から目を守るのです。
 ── 頭髪にも大変化がおきます(大笑い)。精神機能が低下しはじめるのは、何歳ぐらいを境目にしてでしょうか。
 屋嘉比 意外と早くから低下するものもあります。知能テストの成績などは、二十歳がピークで、その後は徐々に低下していくようです。二十歳を過ぎると、毎日、十万個の脳細胞が死滅していきますので、それにともなう現象かもしれません。
 ── すると、私は四十五歳ですから、かなり低下してますね。(笑い)
 屋嘉比 そんなことはないですよ(笑い)。たしかに、脳細胞はすでに九億個以上は減少していると思いますが。(笑い)
 問題は神経細胞の回路です。頭を使う人は、年をとっても、神経回路はますます発達し、機能が向上することもあるようです。
 でも、ふつう記憶力や学習能力の衰えが明らかに目立ちはじめるのは、やはり、四十歳ないし五十歳ぐらいからのようです。
 ── このまえ、「朝日新聞」で「高齢化する世界の指導者」という企画をやっていました。意外なほど高齢者が多いんですね。なぜ、各国の政治的指導者の健康がしばしば重大な関心事とされるのか、あらためて、その理由がわかりますね。
 屋嘉比 ソ連のチェルネンコ書記長(当時)は七十三歳ですか、よく健康不安説が流れる。
 また、アメリカのレーガン大統領もたしか同じ七十三歳。大統領選の遊説中に、飛行機のタラップでつまずいたことが、選挙の結果に影響するかもしれないとニュースになりましたね。(笑い)
 ── 名誉会長は、世界の各国の指導者と会っておられますが、年配の指導者がいいか、または若い指導者のほうがよいと思われますか。
 池田 それはなんともいえない。その国の実情もあるだろうし、個人差もあるでしょう。ただ言えることは、時代が若い指導者を要請していることは、まちがいないと思います。
 屋嘉比 先生が会われた世界各国の指導者はどれくらいの年齢でしたか。
 池田 ちょっと年齢はよく覚えていないのですが。(笑い)
 中国の鄧小平党中央顧問委員会主任とは、二、三回会見しましたが……。
 ── いま、八十一歳ですよ。
 池田 あっ、そうですね。元気ですね。
 もう亡くなりましたが、コスイギン首相は、会ったときは、七十歳ぐらいだったでしょうか。
 現在のチーホノフ首相は、七十五歳ぐらいのときだったと記憶しています。
 ブラジルのフィゲイレド大統領、ペルーのベラウンデ大統領、ブルガリアのジフコフ議長(元首)、すでにやめていますがメキシコのロペス大統領、インドのデサイ首相……。
 皆、六十歳代もしくは、七十歳代だったと思います。たしかに皆、元気でしたね。
 オランダのルベルス首相、オーストリアのジノワツ首相は若い人でした。アメリカのエドワード・ケネディ上院議員も若かった。キッシンジャー博士はたしか、五十代だったでしょうか。
 あ、それから周恩来首相は、七十五前後でしたかね。亡くなる一年ぐらい前でしたが……。
 屋嘉比 革命でもないかぎり、若手の政治指導者はなかなか出てこないものでしょうか。
 池田 たしかに安定を求める社会では、相対的に保守化が進みますから、どうしても世代の交代はむずかしくなるでしょう。
 ときには多くの人々が、若い指導者を待望することもまちがいない。その例として、故ケネディが四十二歳で大統領になったような例もありますね。またヨーロッパでは、比較的若い指導者が多いようです。
 屋嘉比 しかし世界的には、ますます高齢化しているような気がしますが。(笑い)──ちょっと調べてみても、イランのホメイニ師が八十四歳、また独自の外交路線が注目されているチュニジアのブルギバ大統領が八十一歳。七十八歳では、ベトナムのファン・バン・ドン首相、マラウィのバンダ大統領、スリランカのジャヤワルデネ大統領などがいます。
 とくに共産圏で高齢者が目立ちます。
 七十歳以上は、朝鮮人民共和国の金日成主席をはじめ、東欧八カ国のうち、五人までがそうですね。
 池田 すると、現在の指導者たちにとって最大の政敵は、自分の年齢になってきてしまった感がある。(笑い)
8  要請される「人類のための宗教」
 ── ところで、名誉会長は、多数の方々と会い、また激励をしておられますが、名誉会長の高齢者観はいかがですか。
 池田 いや困ったね。(笑い)
 私は昭和三年生まれで、「昭和三年会」というのをつくっています。
 その会合のとき、同じ年齢であっても個人差と、老化現象のあらわれ方にちがいがあるのを、目のあたりにします。そのときほど、お互いに、格差を考えさせられることはありませんね。(大爆笑)
 屋嘉比 そうですか。たしかに表面にあらわれる老化現象には、個人差があるように見えますが、それ以上に、精神的な面の老化のほうが、個人差がはなはだしいといえるでしょう。
 池田 老いのことは、目の輝きによって、あるていどの年齢になっても、より若く見えたり、若くとも、よりふけて見えたりすることは事実です。
 また、苦労しているから老いの印象が強いとか、苦労していないから若々しいとか、いちがいにはいえないと思う。それなりの人生の年輪を刻んできた人の顔は、なんともいえない頼もしさと、安心感を私たちにあたえてくれるものだ。
 そういった人々の、物事の本質を見抜く眼は、むしろ年とともに深まっていくものでしょう。
 このへんの自分の人生の来しかたを、みずからが考えなければならないと思います。
 ── それにしても、科学万博に、人間の老化を止める技術が展示されるのは、いつのことでしょうか。(笑い)
 屋嘉比 いや、その予測は、ちょっとむずかしいですよ。(笑い)
 池田 最先端の技術を利用することにより、老化遺伝子のナゾを解く研究をしている学者がいるとも聞いていますが、屋嘉比さん、どうなんでしょうか。
 屋嘉比 たしかにお話のとおりです。
 簡単に申しあげますと、「老化現象」というのは、本質的には細胞レベルの現象です。私たちの身体の細胞は、生まれてから約五十回ほどの限られた回数しか分裂できないという考え方や、生まれたときから老化をつかさどる遺伝子があるとする考え方などがあります。
 ある年齢になると、だれでも、この遺伝子が働き出し、(細胞が死滅してきて)老化がはじまるというわけです。
 池田 そうですか。具体的には、どういうことになりますか。
 屋嘉比 たとえば、動脈硬化やガンなどは、本質的には「老化」にともなう現象と考えられています。ですから、多くの医学者が、生命の本体であるDNA遺伝子に着目して研究しております。
 池田 そうしますと、遺伝子の性格や構造に光をあてている段階ですか。
 屋嘉比 たとえば、寿命の長い人の遺伝子の構造がどうなっているか、明らかにしようとしています。
 池田 それが、いま注目されている生命工学ですね。
 屋嘉比 たいへん熱の入っている分野です。
 学者によっては、老化遺伝子の発見に昼も夜もないほどです。
 池田 その老化遺伝子が見つかる可能性はあるのですか。
 屋嘉比 たいへんにおもしろい例があります。子嚢菌という菌では、その細胞中のミトコンドリアのDNAが、老化遺伝子と考えられています。ところが、突然変異によってできた、老化遺伝子のない菌は、限りなく増殖しつづけるようです。
 池田 すると、人間の老化遺伝子を見つけ、その働きを抑えることによって、すべての人間に長寿があたえられる可能性はあるのですか。
 屋嘉比 結果的には、まだわかりません。ただ、もし実現すれば、遺伝子操作の問題は、人間の運命打開のひとつになる可能性はあるわけです。
 池田 運命打開のひとつになればいいですね。
 屋嘉比 いまだ希望的観測です。ですから、私は価値ある人生を生きるうえで、科学とともに、人類のもうひとつの文化的財産である宗教の存在意義は大きいと思いますが。
 池田 よくわかります。イギリスのJ・モーレイという思想家は、すでに、「科学の次の仕事は、人類のための宗教を創造することにある」と言っていますからね。
 屋嘉比 含蓄ある言葉と思います。
 池田 私がこの仏法を知ってまもないころでしたが、あるとき、第六十五世日淳上人の論文を拝し、たいへんに感銘を深くしたことがあった。それは、多少表現は違っていたかもしれませんが、この「生命」という問題についていえば、「勿論科学の世界でない。経済の世界にもない。此は宗教の世界に於て初めて存在し得るところであります」という内容であったと思います。
 屋嘉比 なるほど。たしかに、「生命」「人類」「宇宙」といった根本的問題の解明は、上人のおっしゃるとおり、宗教的次元のことであると、私も一医学者として感ぜざるをえませんね。

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