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日蓮大聖人・池田大作

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第十三章 宇宙に生死はあるの…  

「宇宙と仏法を語る」(池田大作全集第10巻)

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16  宇宙はまさにエネルギーの宝庫
 池田 そこで、この器世間である地球が滅するとき、「劫焼」すなわち大火災が起こる、と説いております。
 木口 いや、それはすごい。その大火災というのは、地球が太陽の炎のなかにのみこまれるときをさしている、と私は思いますね。
 池田 また「四劫」は、ま、いろいろ計算法があるのですが、それぞれ膨大な時間を経るとも説かれております。
 ―― なにかの“終末論”とかとは、まったく違いますね(笑い)。じつに明快だ。(笑い)
 木口 まえにも話題になりましたが、「星の死の世界」は、長い間、知られることのなかった領域でしたが、赤外線望遠鏡やX線望遠鏡などの宇宙探査により、次々と新しいデータが送られてきています。
 ―― 最も有名なものは、どんなものですか。
 木口 たとえば「おうし座」のカニ星雲がよく知られています。この星雲は、自爆を遂げた星の姿を見事に映し出しています。
 池田 そのガス星雲は、ありし日の太陽のような姿だった、といわれるものでしたね。
 木口 そのとおりです。しかもこの星雲のなかに、ものすごい正確さで、周期的な電波を出す天体が存在することがわかりました。これをパルサーといいます。これがじつは、まえにお話しした中性子星になることがわかったわけです。
 ―― なるほど。
 木口 この星は、じつに強力な電波を発していることが観測されています。このエネルギーの起源は星の自転のエネルギーで、総量としては、太陽がもっている自転の量とほとんど変わりありません。これが、どのように有効に出されているか、いま研究が重ねられています。
 池田 われわれの銀河系のすべての天体のなかで、いままでこれほど強い電波は、観測されたことがないほどのものだと聞いたことがありますが。
 木口 おっしゃるとおりです。たとえば、このパルサーが一秒間に出すエネルギーで、地球上のすべての電力需要を十億年間まかなうことができるようになるだろう、とまでいわれています。
 ―― すごいですね(笑い)。最近、NASAの専門家が、実用化できるかどうか研究に入った星の新しいエネルギーがある、となにかで読んだことがありましたが、そのことだったのですね。
 木口 たぶん、そうでしょう。星のもつ核エネルギーは星の質量の〇・八パーセントしか使えませんが、重力エネルギーとなると原理的には一〇〇パーセント使えます。
 池田 たしかに宇宙は、くめどもつきぬエネルギーの宝庫だ。
 まさに万物の母という気がしますね。
 木口 まったく、そのとおりです。
 ―― カニ星雲が爆発した記録は、以前にも話題に出た、藤原定家(鎌倉初期の歌人。『新古今集』『新勅撰集』を撰)が日記『明月記』に書きとめていたそうですね。昭和の初めごろ、日本のアマチュア天文家が、アメリカの天文雑誌にその日記を、超新星爆発の記録として投稿したところ大反響を呼んだという話です。
 木口 それは知りませんでした。
 ―― ええ、それまで超新星爆発の確実な記録は、知られていなかったようです。
 木口 いまでも、たいへんナゾにつつまれた星雲です。世界中の天文学者の間で盛んに研究されています。
 これとは対照的にこの星座では、Tタウリ星という生まれて間もない星が見つかっています。また惑星が誕生している可能性を示す事実が発見されたのも、この星座が初めてでした。
 池田 なるほど。おうし座では、星の生と死が同時に演じられているわけですか。おもしろいものですね。
 木口 ええ現代天文学では、さらにこの星や銀河系が生死を繰り返すということがわかっています。
 ―― たしか天王星も、この星座で発見されたのです。
 木口 そのとおりです。天王星がこの方向にあるとき、ドイツの天文学者ハーシェル(大型反射望遠鏡をつくり、一七八一年に天王星を、ついで土星を発見した)が発見しました。いまから二百年ほどまえのことです。
 ―― ところで星が死んだ場合、光を失って宇宙に溶けこむときは、温度は下がっていくわけですね。
 木口 そうです。
 ―― だいたい、どのくらいの温度になるのですか。
 木口 星は元気なときは、何千万度というエネルギーを出しますが、死の状態では、限りなく宇宙温度「絶対3度K」に近づきます。
 ―― 絶対3度Kといいますと、摂氏何度ぐらいですか。
 木口 マイナス二百七十度です。
 ―― そんなにですか。寒さなどという感覚はとおりこしていて、想像もつきませんね(笑い)。考えただけで身ぶるいがする。(笑い)
 木口 それが宇宙空間の平均温度なのです。つまり、星が死ぬと周囲の温度と対応するわけです。
 池田 そういえば人間も死ぬと、当然のことながら温熱の発生がなくなるので、時間が経つと冷えてくる。いくら冷たくなっても、そのときの外界の温度よりは低くならない。
 木口 そうですか。よく、冷たい骸といいますが。
 池田 ある法医学書に、ちょっと冷たく感じるのは、皮膚水分の蒸発のためであり、気温が三十度であるなら、そのていど。十度なら、またそのていどの温度よりは低くならない。他の動物の場合も同じである、と著されていると聞いたことがあります。
 木口 なるほど。冷たい骸という表現は、やはり悲しみとかの情感が込められているのでしょうね。
17  “不滅の陽子”にも死がある
 ―― この宇宙のあらゆる星も生物も、人間の身体もすべて素粒子という、まことに小さな存在から成り立っているわけです。つい最近まで「陽子」と呼ばれている素粒子だけは死なない、つまり不滅とみられていたようですね。
 木口 ええ、この「陽子」というのは、ご存じのとおり万物のもととなる原子の核をつくっているものです。
 ―― この陽子と中性子で核ができあがり、その周りを電子が回っているわけですね。
 木口 おおざっぱに言うと、そうなります。
 ところがこの陽子でさえも、理論的には、やがて壊れることが明らかになりました。
 仏法が説く無常の大原則から、迷い出た孤児ではなかったわけです。(笑い)
 事実、昨年(一九八三年)の夏から、東大理学部のグループが、アメリカ、インドにならんで「陽子崩壊実験」に取り組んでいます。
 池田 それがこのまえ、新聞(一九八四年一月五日付朝刊)で大きく報道されたものですね。よくわかりました。
 木口 ええ今回、確認されたわけです。
 ―― 私もちょっと取材してみましたが、岐阜県・神岡鉱山の坑内に実験場があるそうですね。
 木口 厚さ一千メートルほどの岩石で囲まれた地底に、三千トンもの水を入れたタンクを置いて実験しているそうです。
 池田 ずいぶん大がかりな実験ですね。
 木口 宇宙線などの影響をさけ、遮断するため地下深く入らなければなりません。
 ―― 「陽子の死」を正確に確認するためには、タンクの水の中に含まれている膨大な数の陽子が、自然崩壊するのを待つわけですね。
 池田 たしか「陽子」の寿命は、宇宙の年齢を百億年とみた場合、その百億倍という人知をはるかに超えたものと推定されている、という話を聞いたことがありますが。
 木口 そのとおりです。
 ―― そんなに寿命の長い、しかも目に見えない小さな「陽子の死」を発見することができるのですか。
 木口 ええ、そこがやっかいなのです。実際ビッグバン以降からいまにいたるまで、崩壊した「陽子」は微々たるものだといわれています。しかし、寿命が長いといってもそれは平均寿命ですから、たくさんの「陽子」があると、いくつかは早死にするわけです。
 理論的には、年に数個その死が確認されることになっています。
 ―― なるほど。
 木口 この陽子の研究は、私たちの日常生活とは直接に関係ありません。しかしこの研究により、この宇宙に、どのようにして物質があらわれたかがわかるのです。これは、万物の生の研究なのです。
 ―― そうした新たな真理を証明するには、簡単な机上の実験ではわからないということも、また示唆的ですね。
 木口 そうなんです。科学が進歩すればするほど、残されたナゾは少なくなりますが、半面、解明が複雑で、むずかしくなってきます。そのための費用と人手も莫大なものとなってしまいます。
 ―― ところで最近、科学の進歩によって生まれたビニールや発泡スチロールなどは、生活には便利のようですが、なかなか分解しないし、腐りもしない。やっかいものになっていますね。
 木口 やはり万物は生と死を繰り返すのが、自然のリズムなんですかね。乾電池などもたいへんな問題になっていますね。科学は、人々に多大な恩恵を与えるが、ときによっては、害を与えてしまう場合があります。
 池田 人々は、ふだん恩恵を追い求めるばかりで、あまり害のことは意識しない。
 だが科学は、あくまでも諸刃の剣であることを忘れてはならない、ということでしょうね。
 木口 まったく、そのとおりです。科学する者が、最も心しなければならない問題です。
 科学だけが暴走しかねないわれわれの時代には、科学と矛盾せず、止揚しゆく哲学、宗教は絶対不可欠と思いますね。

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