Nichiren・Ikeda
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第三章 宇宙―その不可思議な…
「宇宙と仏法を語る」(池田大作全集第10巻)
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15 不可思議な生命発生の仕組み
―― 話題が変わりますが、昨年(一九八二年)の暮れ、「E・Tとどう交際するか」というテーマのことで、カール・セーガン博士に電話しました。
電話口の博士は、関心のあるテーマだけれど、奥さんが近く出産の予定なので、と次のように言っていました。
「私は、遠いはるかな宇宙から、たった一人で、孤独な旅をつづけてきた“宇宙の使者”を、敬意を込めて迎えてあげるため、アン(夫人)のそばを片時も離れるわけにはいかないのです」
普通の人が口にすると、ちょっとキザになりますが……。(笑い)
池田 なるほど、宇宙の生命の解明に、うれしい研究と思索をしていたのでしょう。(笑い)
木口 宇宙を研究する科学者は、概してロマンチストです。(笑い)
池田 宇宙に人間のような生命体は存在するか、ということを思索し究明していきますと、自然と“かけがえのない地球”“人間の尊厳”を考えざるをえなくなりますね。
木口 生命とは何か、生命発生の仕組みを完全に知っている科学者は、人類史上まだ一人もいません。
現代科学の最大の神秘でナゾになっていますので、科学のあらゆる分野は、今後、この一点に挑戦していくと思います。
―― 星間分子は、電波望遠鏡などで、ぞくぞく発見されていますね。
木口 まず水酸基(OH)の発見が注目されました。もう一個水素がつけば、水になるからです。
一九六八年、カリフォルニア大学のバークレー校のグループが、アンモニアの電磁波をとらえたときは、興奮しました。生命過程と重要な関連をもつ分子だからです。
―― 名誉会長が、バークレー校を公式訪問し、総長のアルバート・H・ボウカー博士と会談されたのは、その六年後ですね。
池田 そうです。
生命論を交わしました。
―― たしか、講演もされていますね。
池田 ヤング総長(当時)のお招きをうけ、講演は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で行いました。
木口 「ヒューマニティーの世紀」というテーマで、「二十一世紀への提言」をされましたね。
私どもも、たいへんな関心をもって読み勉強しました。
池田 そうですか。恐縮です。
木口 最近、読み返してみましたが……十年ほどたっていますが、「提言」の内容は、ますます現実の課題として、一層、鮮明になっていると思います。
―― 現在の十年の時の流れは、以前の何十年にもあたりますから、たいがいの提言は古くなります。マスコミ的にも、顧みられるような提言は、そう多くありません。
池田 仏法の立場は、無始無終ですから(笑い)。講演では、「仏法が説く生命観」を話しました。
―― UCLAのノーマン・ミラー博士も講演を聞いて、初めて「仏法の真髄に触れた」ともらしていたそうですが……。
とくに、現代科学が直面する「生と死」、また仏法の「空」については、あらためて理解を深めたと言っていた、とも聞いていますが……。
池田 ミラー博士とは、講演のあと懇談しました。
いま木口さんから説明のあった、カリフォルニア大学が重要な星間分子を発見したという話題は、とくになかったと思います。
―― 星間分子の発見は、各国とも競争のようですが、これは、アメリカのベル電話研究所が開発した通信技術の装置のおかげで、急速に進んだそうですね。
木口 そうです。エチルアルコールが発見されたとき、私たちが宇宙旅行に行くころ、これを集めて一パイ飲める、という冗談もでました。(笑い)
現在、五十二ほど分子が発見されています。
―― 最近、一酸化炭素(CO)の波長が盛んに観測されているそうですね。
木口 ええ。一酸化炭素がいちばん観測しやすいからです。
この観測は、銀河全体の構造を解明します。また、巨大分子雲など、星の誕生を明らかにすることにもなります。
赤外線や、先日、日本でも打ち上げたX線観測器を備えた人工衛星(一九八三年二月二十日、鹿児島県内之浦から打ち上げられた人工衛星「てんま」)などによって、宇宙塵の分布も、もっと詳しくわかるようになりました。
池田 簡単な有機物が多数発見されても、生物との差が大きすぎるでしょう。
セーガン博士でさえ、現在、考えられている宇宙の寿命では短すぎて、ウイルスのような、簡単な生命体が生じるために必要な分子の衝突の回数にも達しない、ということを認めていますね。
16 生命の発生はいかに稀有か
―― 今日、私たちの生活器具にも、広く応用されている半導体のなかのシリコンやゲルマニウムなどの原子が、宇宙空間でいくら衝突を繰り返しても、百億年どころか、一兆年たっても、トランジスタにはなれないのと同じくらい、生物の誕生はむずかしい、という学者もいます。
木口 私は、生物学は専門ではありませんので、詳しいことはわかりませんが、生命体を構成する一つのレベルにタンパク質があります。
池田 タンパク質の働きを可能にするには、アミノ酸のクサリの順番が、正しく並んでいなければならないということですね。
木口 そうです。わかりやすく言いますと、タンパク質を機能させるには、アミノ酸=二百ほどからなるクサリと、二十種のアミノ酸がきちんと並ばなければなりません。
たとえば、このタンパク質のできる確率はの二百乗分の一です。
―― 1に0が二百個。これがの二百乗です。これは原稿用紙半分が0で埋まる数です。たとえば一億は1に0が八個、一兆は1に0が十二個にすぎません。これと比べると、いかに大きい数字であるかということがわかります。
木口 計算の仕方を説明しますと、私も皆さんも頭が痛くなりますので……。(笑い)
池田 結論を先に言いますと、生命をつくりだすタンパク質一個できあがるのも、たいへんむずかしい、ということですね。
木口 そのとおりです。池田先生が、セーガン博士の話を紹介されましたが、宇宙ができて以来、一秒に一回ずつ一立方ミリの空間で、タンパク質合成をつづけてきたとしても、意味のあるタンパク質は一つもできません。
―― タンパク質ができる方向で計算したデータもありますが、これはビッグバン(大爆発)による宇宙の誕生から、宇宙の死を一兆の一千億倍以上も繰り返す計算で、頭は痛みを通り越して、しびれてきます。(爆笑)
池田 そのタンパク質も、まだ生命を構成するほんの一因子にすぎない。
膨大な数や計算に意味があるのではなく、生命の発生が、いかに稀有な事実かということを示していますね。
しかも知的生物の出現、人間の誕生の確率になると、そのすべての条件を満たすことは、科学的推論の範疇をはるかに超えていると思いますが……。
偶然か必然か、という議論もありますが、ただ不可思議としか、言いようがない。
17 宇宙の運行にみる「妙」の法則
木口 たしかに、おっしゃるとおりです。たとえば、それは、私が研究している天体核物理学という学問の分野でもいえます。
いちばんわかりやすい例では、地球と太陽の距離です。
もし地球が太陽に、あと三千万キロ近くても遠くても、私たち人間を含めて、いまの生物は存在していません。生命を維持するため、最も重要な水が凍りもせず、蒸発もしない距離は、これ以外にないのです。
池田 太陽と地球の距離が、一億五千万キロ。
この近からず遠からずが、生命を生み、育む最適条件になっています。まことに「妙」であり「法」である。
「妙」とは「真実である」とある。ちょっとむずかしくなりますが、劣悪という意味の「麁」を断絶することとも説かれています。人智の範疇では計算できないという意味です。
この位置が変わると、太陽の光も熱も、生物にとっては、恩恵ではなくなってしまう。
―― 近づけば「焦熱地獄」、離れると「八寒地獄」。
木口 地球上の生物は、親である太陽が、定常的に太陽エネルギーを与えてくれることに、すべて依存しています。
この量が少しでも変わると、氷河期がやってきたり、乾期になってしまいます。
もし大きな変化が起こったら、地球は大混乱ですけれど……。
池田 また、一秒の、何千億分の一でも、地球の自転、太陽への公転にとつぜん狂いをおこすようなことがあれば、これまた大地震どころか、破滅でしょうね。
ゆえに仏法では、東天に向かって宇宙の威光勢力を増長せしむる、という意味をはらんだ「天拝」の儀式があります。
そこでは「諸天昼夜に、常に法の為の故に、而も之を衛護し」といって、宇宙の運行が、正確に威光を発揮せしめていくように、という祈りがあります。
―― よくわかりました。ところで科学では、あらゆる法則が、きちんとバランスがとれ、なぜ地球にとって最適の状態を保っているかは、わからないわけですね。
“現状”を計算することはできても……。
木口 そうです。「われわれの宇宙の性質は不思議である」というコールダー博士の言葉に尽きてしまうことが、あまりにも多いのです。
池田 いまの重力が少しでも変われば、人間は地球を飛び出してしまうでしょう。そんなことが起こると、太陽と地球の間の距離が変わってしまいますし、地球の空気がぜんぶ蒸発してしまうかもしれない。
木口 「運動量の保存則」のおかげで、お金がひとりでにポケットから飛び出して月へ向かうこともない。
―― 貧乏は保存則を破る。(爆笑)
池田 それは福運の問題ですけれど。(笑い)
たとえば、「電荷の保存則」が狂うと、とにかく紙の原子でもバラバラになってしまう。
木口 日常、目にする物質すべて電気の力で結びついていますので、とつぜん電気が生まれたり、消えたりしたら、たいへんなことになります。
―― 一万円札も使わないうちにコナゴナ。(笑い)
池田 ところで、最初の問題、宇宙と生命、そして仏法における生命の法則についてですが、結論にもっていくには、もう少し話し合ってからになってしまいましたね。
この次も、もう少しつづけて、本題の結論を出しませんか。
木口 私もそうしたいと思います。
―― これまで宇宙空間の不思議な法則を、それぞれの立場から語っていただいたと思います。
「不思議大好き」という流行語がありましたが、社会の底流にも、科学的な好奇心の高まりがうかがえます。
木口 その意味からも、最も不思議な実在であるのが、生命ですね。
池田 ところで、木口さん、要するに、銀河系に一千万個の地球のような星が推算されたということを、この対談の始まるときに、ちょっと話しておられたが……。
木口 そのとおりです。明確にアメリカのドレイクという博士の方程式があります。
―― 次はそのへんから論じていただきたいと思います。仏法の立場、科学の進歩という両面から話を進めていただきたいと思います。