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日蓮大聖人・池田大作

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高度神経活動学説  

「第三の虹の橋」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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8  精神身体医学(心身医学)が高い水準に発達しているアメリカでは精神科医は精神分析を用いるにあたって、人間の心理・精神状態のフロイト的理解をよりどころにしています。そこでは患者の意識下の精神的体験、主として性的なものに基づいて病気の原因や性質が診断されます。
 ソ連の精神科医は病気の診断にさいして対談、患者を交えての病因および病気の特質の分析、情緒・ストレス的心理療法といった広範な手段を用いています。大脳の意識的活動範囲と無意識的な領域が並行してとらえられるのはいうまでもありません。しかし、ソ連の専門家はフロイト的思想傾向の精神分析医と違って、無意識行為を、人体の内外からの刺激によってもたらされ、意識領域に達しない行為として理解しています。
 その場合、病気の原因と性質は、夢や象徴の説明といった主観的方法によってではなく、患者が生活している社会環境の客観的な分析、患者の心理・精神状態、情緒・習慣の特質によって判定します。ソ連には専門化された精神療法研究室が約五百、大規模の精神療法センターが数カ所あり、さらに医科大学では精神科医の専門訓練がなされています。将来は心理療法はいっそう進歩し、改善されるでしょう。
 あなたはネルヴィズム論の理論的側面にふれておられます。
 生物は種々の条件反射を獲得していくにつれて、しだいに外界に対する自由を得ていくというあなたのお考えに同感です。条件反射は高度に複雑化することが可能です。動物にとっては外的環境に適応するためのこのような器官で十分ですが、人間にとっては、人間を動物界から区別するもう一つの信号系、すなわち、普遍化、抽象化を内容とする特殊信号――パブロフによる――の刺激が必要です。このような信号が言葉なのです。人間の大脳の重要な機能である言語によって人間は創造力や個性を伸ばし、その結果、文化や科学技術の領域で大きな成果を上げることができたわけです。
 すでに古代ギリシャのヒポクラテスは四種の気質――胆汁質、多血質、粘液質、うつ気質――を定義づけ、体内の三つの液体――血液、胆汁、粘液――の相関性と質に応じて人間の気質の相違を説明しました。こうした定義づけに対する批判はさておいて、人間の振る舞いの特徴をさまざまな気質に従って正しくみてとったヒポクラテスの炯眼は十分に評価すべきでしょう。
9  パブロフは動物と人間の高次神経活動の個々の違いを重視しました。彼は神経系統の主な特質である神経プロセスの強度と平衡度、易動性を組み合わせて高次神経活動の型についての学説を打ち立てました。これらの特質は天性のものです。パブロフとその後継者は各種の条件反射の助けをかりて神経活動の四つの型を選びだしました。それら四つの型は、パブロフが考えていたように、四種の気質についてのヒポクラテスの記述と合致します。
 パブロフは人間の高次神経活動の一般的な類別のほかに、一次信号系と二次信号系との間のさまざまな相関性によって特徴づけられる特殊の型を類別しました。それは次のとおりです。
 ○芸術型∥この型の人間では、情緒的な思考傾向が強く、直接的な現実受容がはっきり現れます。
 ○思考型∥二次信号系――言語、抽象的な思考能力――が発達しています。
 ○中間型∥以上の二つの型の特徴がつり合っています――大半の人がこの型に属する。
 パブロフは型と性格を区別しました。性格は高次神経活動の先天的な特徴と後天的な特性が結合したものです。周知のように、性格の形成に対して大きな影響を与えるのは人間形成の場となる社会的条件です。このような人格形成の過程で後天的な型の社会的行為は多くの場合、先天的な型の高次神経活動を完全に蔽い隠してしまいますので、それを見きわめるのはきわめて困難です。換言すれば、ある人間がどの型の気質に属するかを判定するのは容易ではありません。
 人間の大脳、総じて人体は周囲の環境や状況に対する大きな順応力をそなえているという点に注意する必要があります。したがって、幼時期から子どもに一定の教育と習熟を体得させることがとりわけ重要なのです。先天的に神経系の弱い人が、強い神経系をもった人より大きな労働能力と生産性の持ち主である場合が往々にしてあるのは、このためです。
 現代の生活は、すでに早い時期から職業指導の問題が提起されるほど目まぐるしく動いています。こうした問題の解決を容易にするためには、人間の高次神経活動の天与の特性を知ることが必要です。たとえば、飛行士、空港管制員、オペレーターにとっては、優れた肉体的訓練、敏捷性、神経プロセスの均衡性が必要です。
10  学者は人間の大脳の個別的特質についての研究をつづけています。そのさい、大脳各部における神経プロセスの基本的特徴の解明に大きな注意がさかれます。この方面でソ連の学者、とりわけチェプロフとニェブィリーツィンは優れた成果を上げました。一例をあげれば、二人は、神経系の弱いうつ型人間は感覚的に鋭いという事実を突き止めました。このことは、ある気質の不足が別の気質の高い発達によって償われるという大脳の大きな能力を裏書きしています。
 ここでもう一人のソ連の優れた学者、精神科医で心理学者のベフテレフの名を思い出すべきでしょう。彼は生理学的、解剖学的、そして心理学的方法による大脳の総合的研究に基づいて性格を研究しました。彼は反射学の創始者といわれていますが、それは正しいと思います。
 神経プロセスの性格の研究は、あらゆる方向、あらゆる水準――分子、細胞、組織――において進められています。その結果、生理学者が確言しているように、すでに近い将来、個々の大脳部分、全体としてはすべての大脳皮質の働きの主要特徴を解明することが可能になると思います。
 一方、そのことによって、任意の活動に対する人間の能力が解明されるだけでなく、生活体の生理学的メカニズムの働きも完全に説明することが可能になるでしょう。

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