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日蓮大聖人・池田大作

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文化交流のあり方  

「第三の虹の橋」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

前後
16  池田 シルクロードの衰退には、チンギスハンによるオアシス都市の破壊と同時に、当時、海路の開発が進んでいたということもあるようです。陸路が危険であり、さらに中継のオアシス都市が破壊されたために、ますます海路が要請されたわけです。そこで文化交流は海路が中心となり、近代に入ると空路が加わり、より早く異国の文化が伝えられるようになりました。
 そしてさらに、近年における科学技術の驚異的な発達によって通信手段が大きく進歩し、かつてのシルクロードとは比較にならないほど、質量ともに交流が可能になっています。熱砂も峻険な山脈も、今ではなんの障害にもなりません。にもかかわらず、今もって真実の交流はしばしば妨げられています。それは人間の心に巣くう偏見、敵意、反目、猜疑心、侮蔑、傲慢などが、最後の障壁として残っているからです。
 熱砂や険難な山脈や波涛乱れる大海等の障壁は科学技術によって乗り越え、次々と新たなシルクロードを開拓することができました。今、克服すべき障壁は人間の心に巣くう悪であり、私たちは「精神のシルクロード」を開拓すべき時を迎えています。
17  私はかつてモスクワ大学を訪問したさい、「東西文化交流の新しい道」と題して講演し、そこで「民族、体制、イデオロギーの壁を超えて、文化の全領域にわたる民衆という底流からの交わり、つまり人間と人間との心をつなぐ“精神のシルクロード”が、今ほど要請されている時代はない」(本全集第1巻収録)ということを申し上げました。そして「いかに抜きがたい歴史的対立の背景が存しようとも、現在に生きる民衆が過去の憎悪を背負う義務は全くない。相手のなかに“人間”を発見した時こそ、お互いの間に立ちふさがる一切の障壁はまたたくうちに瓦解することであろう」(同前)と述べました。
 人間と人間の間にある障壁は、すべて幻想にすぎません。民族的敵意や人種的差別や、それら一切はすべて人間の心がつくりだしたものであり、真実の障壁は自分の中にこそあることに私たちは気づくべきです。私たちは、心の中にあまりにも多くの色メガネをもちすぎています。これをまず取り外さなければなりません。そして、ありのままに、相手の人間を見ることです。すなわちイデオロギーや政治性で見るのでなく、まず人間自身を直視すべきであると思います。
 その意味で私は、今日、人類が最も必要としているのは、ヒューマニズムであり、人間を人間として見ることのできる眼を育てる「人間学」であろうと思います。
 ログノフ 人間関係の歴史は漸進的なプロセスです。今では数千キロの距離も人々の交流の妨げにはなりません。たとえば、モスクワで機上の人となり、そこで夕食をとり、翌朝には東京で朝食をとる時代です。諸国民間の接近の速度もこのような速さに負けてはならないはずです。
 しかし、すべてが満足とは今のところいえません。今もって、ある人々は、力だけが一切の解決を可能にすると考えています。こうした考えはその人が知的発達の点で未開人と大差ないことを意味します。でも私は人間の理性を信じ、ゴルバチョフ氏が根気づよく呼びかけている新しい政治的思考を、そして究極的には理性が勝利することを信じます。
 人類は唯一正しい選択をすることでしょう。そして諸国民間の交流を妨げるようないかなる政治的冒険も人々を互いに近づけ、進歩と和合に導く「シルクロード」から人間をそらすことはないでしょう。

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