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日蓮大聖人・池田大作

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伝統と近代化  

「第三の虹の橋」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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4  池田 私がスラヴ派と西欧派との論争に興味をもつもう一つの理由は、スラヴ派の論調に多くの欠陥はあるにしても、彼らが一様に、ロシア古来の農村共同体を称賛しているからです。善良で信仰心が厚く、裕福なロシアの農民像は、多くのロシアの作家が好んで取り上げたところでもありました。
 ある日本の識者は、こうしたロシアの伝統を指摘して「ロシア人は、看板にいつわりなく、平和を愛する民族である」と述べております。事実、現在のソ連を訪れ、親しく民衆に接したわが国の人々が等しく口にするのも、ロシアの人々の人の良さ、スラヴ的鷹揚さといったものです。ロシアのいい意味での伝統は、こうしたところにも生きているのではないかと思います。
 私の若い友人は、農村共同体を意味するロシア語のミールが、同時に平和を意味していることを教えてくれました。私はそこに、ロシア民族の伝統に根ざす、深い知恵を感じたものです。共同体意識が平和の基盤であることは、いうまでもありませんが、とくに世界平和実現のためには、人類全体の運命共同体意識が養われるかどうかがその鍵となるといえましょう。共同体意識と平和という意味を同時に含むロシア語のミールは、そのことを鋭くわれわれの前に提起しているようです。
 私もまた貴国ソビエトを何回か訪問し、さまざまな人々にふれて感じたのは、大地に根ざした逞しい生活意欲と、それゆえにこそ平和を愛する心です。
5  ログノフ ロシア語のミールについてのあなたの語源論的分析はきわめて興味深いといえましょう。事実、この言葉は、たとえば、英語のワールドおよびピースの概念をあわせもっています。十九世紀の一部の著者が叙述した農村共同体という現象はすでにだいぶ前から存在しませんが、ロシア語としては、人々の一定の共同性、なかんずく勤労上の共同性を意味するミールの概念が今なお生きつづけています。ロシア人は今もなお、「ミール的に、つまり、一緒に、共同して、集団的に作業しよう」という表現を使います。
 ロシア語にはミロエードという、もう一つおもしろい言葉もあります。この言葉の語源も同じくミールです。ミロエードとは、ミールつまり勤労者の共同体に敵意をもち、自分は労せず、他人の労働に寄食する人間のことなのです。勤労生活、共同生活を伝統的に尊ぶ風潮、前述のミロエードに対する嫌悪感は、今のソ連にもそのまま受け継がれただけでなく、新しい社会主義的内容を付け加えました。なぜならば、それは、人間の尊厳の判断基準は労働であるという私たちの社会の基本原則と合致するからです。
 ところで、あなたは訪ソの印象を簡単に特徴づけて、「私は貴国において人々の生活意欲を感じ取った」と書いておられますが、それは、私の理解するところ、労働と直接結びついていると思います。
 誠実に働く人間の印象、善良な勤労者の印象は、十九世紀ロシア文学の優れた作家にとってそうであったと同様、今日、ソ連の人々にとっても大切なものとして保持されています。新しい社会主義的内容を加えた善、労働、共同体の伝統は、ソ連の兄弟的諸民族の団結した家庭において神聖に保たれ、さらに発展をつづけています。

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