Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

全体主義的社会  

「闇は暁を求めて」ルネ・ユイグ(池田大作全集第5巻)

前後
16  そこで、私は、私の友だちで、会議に招かれてソ連へ行ったフランスの学者たちの証言を集めたことがあります。彼らは、ロシア人学者の多くが、この“公認”の学説がいかに時代遅れで無力であるかをはっきり認めていたことを、私に隠さずいってくれました。ロシア人の学者たちは、そこで、内緒でではありますが、外国人の同僚たちに、そのことについて話しましたが、既存の法の権威を考慮して、自らの信念を確言することはあえてしなかったのです。
 しかし、事実の明白さのもつ圧力があまりにも強くなって、この防波堤は屈せざるをえなくなり、ソ連は、ついにはルイセンコの生物学理論を放棄しました。
 同様にして、逆の意味ではありますが、ナチズムは、議論の余地のない遺伝子のこの働きに頼って、人種主義という、一枚岩の、したがって常軌を逸した、しかも矛盾した教義をそこから引き出しました。そして、その正当性を示すために、ヒトラーは何百万の人間を虐殺させたのです。
17  合理的な体系というのは、こうした道をたどるのです。そこでは、その原理と反しているあらゆる事実の明証は隠され、部分的な真理しか認められず、現実の生きた複雑さの中にそれを同化させようとされないため、惨憺たるあやまちとばかげた行為に変わってしまいます。
 私たちは同じあやまちを犯さないようにしましょう。人間が、ただ社会的・歴史的形成によってのみ決定づけられるとする原理を立てることは、あらゆる確かな事実に反しているとしても、私たちは、それにもかかわらず、どのていどまで、それがあてはまるかを見分けるようにしましょう。そして、人間精神を強制し抑圧するためでなく、責任ある自由の感覚と行使を人びとの内に発展させるために、これを活用するようにしましょう。
 マルキシズムが資本主義に戦いをしかけながら、その敵を窒息させている物質主義という同じ鋳型を不用意にそこから借りてしまったのは、同様の歴史のパラドックスによります。マルキシズムも同じ袋小路に迷い込んでいるのです。

1
16