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日蓮大聖人・池田大作

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快楽としての性  

「社会と宗教」ブライアン・ウィルソン(池田大作全集第6巻)

前後
11  性にまつわる事柄を道徳的に規制した昔からの考え方にも、付随的な利点があるのかもしれません。たとえば、放縦が抑制され、しつけの教育がなされ、本能的生殖欲が芸術的分野での創造的努力に昇華されるといった点です。社会によっては、他の機関や仕組みによってこうした必要な規制が立てられ、個人の中に維持されてきたこともあるでしょうが、私は、少なくとも西洋社会においては、性行為に課せられた道徳的禁戒が道徳的反応の原型といえるものを生み、それが、他の分野での社会的挙動の範例となってきたのではないかと考えたいのです。
 もし、これが事実であれば、快楽のための性が公然と承認されるというように、性道徳に対する態度が急激に変化することによって、他の道徳的訓戒も弱まることになるかもしれません。ただし、現代社会の新たな科学技術体制を考えると、道徳的規制が、はたして秩序ある社会の統制にとって十分なものであるかどうかという疑問があることは、前にも提起した通りです。
12  池田 先に述べましたように、仏教においても、一般世俗の人々のために定められた戒律の一つに「夫あるいは妻以外の異性との性的行為を禁ずる」という項目があります。これは、いわゆる小乗仏教で強く戒められているものですが、根本的には、仏教全体に通ずる戒律と考えられます。
 文明社会においては、生殖を離れた快楽のための性が一般的傾向となってきているわけですが、そこにはモラルが必要です。仏教のこの戒律は、そうした快楽のための性も、夫婦という結婚制度と、家族制度の維持を前提として行われるべきだということを意味しています。
 結婚制度と、それを基盤として成立している家族制度は、社会の諸機構を支えるばかりでなく、一人前に育つために長い年月を要する人間の養育のための――ということは文化の保持のためでもあるわけですが――欠くべからざる条件です。しかも、男の子であれ女の子であれ、男と女という異なった特質をもつ親が、その初期の人格形成に関わることは、やはり重要です。
 もし不幸にして、片親だけの場合、その片親は、両方の親の特質を兼ね備えて、子供に対することが必要となりましょう。その意味でも、結婚制度と家族制度は、人間が人間らしく育ち、人間らしさを保持するための不可欠の条件であり、その立場から、性のモラルも確立されなければならないと私は考えます。ただし、それは権力によって強制されるべきものではなく、一人一人の自覚によって支えられるのでなければなりません。
13  (注1)マルサス(トーマス・R)(一七六六年―一八三四年)
 イギリスの経済学者。アダム・スミスらとともにイギリス古典派経済学を代表する。その著『人口論』において人口と食物の増加力を比較し、人口増加にともなう貧困と罪悪の必然的発生を防ぐため人口増加抑制を唱えた。

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