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ガンと心の研究  

「社会と宗教」ブライアン・ウィルソン(池田大作全集第6巻)

前後
6  池田 教授のご指摘は、まことに正鵠を射たものです。信仰の成果の発表や説明も、今日の医学の言葉でなされなければ、多くの人々を納得させることは難しいでしょう。
 ところで私は、今日では信仰者よりもむしろ医師のほうが、信仰と医学の関連に注目し始めていると思います。つまり、医師が(なかにはある特定の信仰を持つ人もいれば、まったく信仰とは関係のない人もいますが)医学的診断と治療を基盤としたうえで、宗教的信仰の重要性を認め始めているのです。
 医師たち、特に心身医学に関心をもつ医師の中に、当然、現代の代表的な治療法である薬物療法・手術療法・免疫療法・放射線療法等を使用しながら、それと同時に、人間の心の側面の改善のために、種々の心理療法・精神療法や宗教の修行法を導入しようと試みる人々が出始めています。
 たとえば、国際心身医学会や日本の心身医学会では、多くの心理療法とともに、瞑想療法や、仏教の観心という修行法にヒントを得たイメージ療法等の効果が報告されています。もちろん、このような医師の報告は、当然、現代医学の診断・治療を基盤にしており、リポートの言葉も医学用語で語られているわけです。
7  たしかに、教授が指摘されるように、信仰の深さ、帰依度と治療の良否を直接的に結びつける厳格な客観的尺度を作ることは不可能か、そうでなくてもきわめて困難です。しかし、そのことは、信仰ばかりでなく、患者の他の条件についてもいえることです。
 患者は、独自の生活歴の中で、個性ある人格、心を築き上げてきています。遺伝的素質が相似していても、生活歴が変われば、患者の心・精神のあり方も随分違ったものになるでしょう。だからこそ、このような人間の心にまで深く関係し、人生体験そのものと深く関わる医学は、ある程度の普遍的基礎理論はあるにしても、医師と患者の個別的医療の色彩を濃くせざるをえないのではないでしょうか。
 こうして、患者の個性と信仰の度合いという、二重の不確定要素が絡み合ってくるため、信仰と治療の問題はきわめて複雑であり、容易に立証することは望みえないかも知れません。しかし、私は、現在行われているような医師の側からの試みが進めば、ガンと人間心理と宗教の関連も、徐々に解き明かされるようになるのではないかと期待しております。
8  (注1)国際心身医学会
 心身医学に携わる学者・医師が国際間で形成している学会。心身医学とは、心の健康なくして肉体の健康はありえないとして、病気を心身一如の人間の疾病と見る立場から診察・処置していこうとする医学。フロイトの精神分析学の影響を強く受けている。
 (注2)『サイエンス』誌
 アメリカの権威ある週刊科学雑誌。一八八〇年創刊。発行元は財団法人米国科学振興協会。科学の発達段階で必要な出来事・研究の報道や独創的なリサーチの発表などに同誌の特徴がある。
 (注3)日本聖書協会発行一九五五年改訳版『聖書』(詩篇37:35)。(第一部「生命の永遠」の項参照)

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