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日蓮大聖人・池田大作

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臓器移植について  

「社会と宗教」ブライアン・ウィルソン(池田大作全集第6巻)

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7  池田 脳移植をはじめとして、今後の医学の進歩には、予断を許さないものがたくさんあります。
 クローン(注2)生物や、さらにはクローン人間、人間と動物とのキメラ(注3)、向精神薬(注4)による脳のコントロール等、一度その領域に踏み込んで実用化に手を付ければ、取り返しのつかないものばかりです。
 これまで医師のとってきた行動や思考は、ともすれば技術中心主義に陥り、医学の進歩だけが至上命令のようになってきた傾向があります。このような技術至上主義や進歩を絶対視する考え方は、患者を教授の指摘される“医学界全般の欲求”の犠牲にする場面が生じ、ひいては人類という種の存続すら、危うくしていくのではないでしょうか。
 技術的に可能であり、その可能性を見極めたいということと、実際にその分野に踏み込んで実用化してもよいということの間には、簡単に越えてはならない一線があるように思います。医学技術の進歩が可能にすることの中には、人間にとってかえって不幸をもたらす事柄もあり、また人類全体にとってもきわめて危険な事柄もあるからです。
 そこで私は、医療関係者だけではなく、医学の恩恵と危険をともに受ける社会全体で、医学の進歩のあり方を考え、ときによってはストップをかけることがあってもよいのではないかと思うのです。医学は、それ自体の進歩のためにあるのでも、医師のためにあるのでもありません。あくまで人間のために医学は存在するのであり、逆に人間が医学のためのたんなる“症例”となり、犠牲になるようなことがあってはなりません。
 “人間のための医学”――そのあり方を再検討すべき時期にさしかかっているのではないでしょうか。
8  (注1)人工心肺
 心臓手術の際に、一時的に心臓と肺の機能を代行させる装置。ポンプと血液酸素化装置をもち、血液を大静脈から導き、酸素を与えて大動脈に送り出すもの。
 (注2)クローン
 遺伝子組成がまったく等しい細胞の生物の集団。受精を経ずに親とまったく同じ個体を作ること。また、こうしてできた個体の集団。
 (注3)キメラ
 動物、植物の世界では系統の異なる二つ以上のまったく別の組織が合して、一つの生物体を形作る現象がしばしば見られる。植物にも接ぎ木の結果、二つの組織が入り混じったキメラが見られる。
 (注4)向精神薬
 中枢神経系に作用して精神状態に影響を与える薬剤。鎮静剤、睡眠剤、覚醒剤、幻覚剤、精神安定剤など。

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