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日蓮大聖人・池田大作

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自殺は認められるか  

「社会と宗教」ブライアン・ウィルソン(池田大作全集第6巻)

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6  池田 現代においては、国家機構や巨大企業に代表されるような、巨大な規模での組織化がますます進んでおり、そこでは、一人一人の人間は部品化されるばかりです。一人の人間を人格的存在として認め、擁護するような人間同士のつながりは失われる一方です。教授が指摘されるように、まさしくここに、現代の自殺増大の最も大きな原因の一つがあると、私も思います。
 しかし、そうした人間的な環境の変質の根底をさらに探ると、やはり、人々の“生きることの尊さ”への意識が薄れていること、そして生き抜いていこうとする意欲、いわば生命力というべきものの弱体化といった、人間の内面的なものに、より根本的な原因があるといわなければなりません。
 端的にいえば、自殺とは生きることの“尊さ”を見失うことによる、精神の破綻といえます。生きることの尊さを自覚させてくれるものとしては、一つは、自分がこの人生において何をしたいかという目標・理想をもつことです。それをもっている人は、たとえ、どんな厳しい環境にあっても挫けることはないでしょう。目指す目標を達成し、理想を実現するためには、生き抜かなければならないからです。
7  しかし、すべての人が、自己の人生において、そうした明確な目標や理想をもちうるわけではありませんし、一つの目標を達成してしまって、そのために目指すべきものがなくなってしまったという場合もあるでしょう。そうした、はっきりした理想や目標がなくとも、生きることの尊さをより多くの人に自覚させてくれるのが、第二に挙げたい人間的信頼の絆です。たんに自分が誰かから信頼されているというだけでなく、自分から積極的に他の人のことを考えるようになることが大切です。
 宗教は、たとえば仏教で説く成仏のように、現在の人生の途中で終わってしまうことのない目標を教え、また、仏教の慈悲のように、他の人々への思いやりを教えます。もちろん、さきにも申し上げましたように、すべての宗教がそうしたものを教えているわけではなく、仏教のなかにさえ、これとは逆行する教えもあります。したがって、未来への希望と、他者への心の広がりというこれらの点について、どのように教えているかが、ある意味で、宗教を選択するうえでの基準とされてよいのではないかと思われます。
8  (注1)カール・メニンガー(一八九三年―一九九〇年)
 現代アメリカの精神病理学者・精神分析学者。ハーバード大学卒業後、メニンガー・クリニックを設立。精神分析の臨床・研究に多大の業績を残しただけでなく教育者、文筆家として幅広く活躍。著作も数多く翻訳されている。
 (注2)「自殺に関する精神分析学的な考え方」(Psychoanaly ticAspects of Suicide)『こわれたパーソナリティ』所収、(草野栄三良・小此木啓吾訳、日本教文社、昭和三十七年刊)。
 (注3)アノミー(規範喪失)
 戦争や革命、危機などの社会変動によって伝統的な権威や規範、価値が失われ、その結果、個人の行動も無統制となり、社会組織の全面的無秩序を引き起こす状態。〈社会の崩壊〉〈人格の崩壊〉〈脱道徳的現象〉の意味も含む。

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