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日蓮大聖人・池田大作

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人格神と「法」  

「社会と宗教」ブライアン・ウィルソン(池田大作全集第6巻)

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8  これと対照的に、仏教では、法華経に、良医とその子供たちの話があります。子供たちは、父の留守中に毒薬を知らずに飲んでしまい、そのために苦しみます。父親は帰宅して、その有様を見て、苦しみを癒す薬を調合し、子供たちに飲ませようとします。素直に飲んだ子は苦から救われますが、毒が強く、本心を失っている子は飲もうとしないため、父が知恵を用いる話が述べられています。
 この場合、苦しみの原因は、父の留守中に誤って飲んだのが毒薬であったことです。父が処罰するという人為的行動が因なのではなく、毒薬の作用という自然の法理によっています。
 ユダヤ・キリスト教の「父なる神」と、この仏教の「父なる良医」の行動も対照的です。「神」は怒って子供たちを楽園から追放し、苦しみに突き落とします。それに対して「良医」は、子供たちを憐れんで、薬を飲ませ、苦しみから救おうとするのです。
 もとより、この「神」が、ただ怒りのみの神でなく、後に救世主を遣わすという慈悲も持ち合わせていること――それがイエス・キリストによって実現したのだとされていること――は、私も知っています。しかし、自分の意志に従わないものに厳しい罰を科す神に対して、信ずる人々が畏怖を抱いたことは、否定できないところでしょう。
 キリスト教神学においては、この「神」を再解釈して、「法」ないし「法のようなもの」の擬人的表現であるとしているのでしょうが、基本的には、意志・感情をもつ人格的存在とする考え方が一貫しています。
 これに対して、仏教では、仏陀を絶対者として崇拝する信仰もありますが、その場合も、仏陀は決して“創造主”ではありません。仏教は基本的には「法」が根本であって、仏陀は、この「法」を覚知し、人々に教え、あるいはこの「法」によって得た知恵を自在に働かせて、人々を救う存在です。この考え方は、真理を観察し、学んで、それを技術化して、生活・人生に活用しようとする現実の文化と共通するもので、教授も言われているように、社会に適した普遍的倫理を与えるうえで、より有利な宗教であると私は考えています。
9  (注1)神人同形説神は人間と同じ姿、形をしているとする考え方。ユダヤ・キリスト教では、神は己が姿になぞらえて人間を創造したと教える。
 (注2)教会法初期ローマ教会における公会議や歴代教皇、有力な司教等の権威によって制定された教会内規則の体系。キリスト教徒の信仰、道徳、慣行などに関するもので、主にカトリック教会、ギリシャ正教会の支配体系であったが、後にその支配力は主(司)教制度のある諸教会にも及んだ。
 (注3)ルドルフ・ゾーム(一八四一年―一九一七年)ドイツの法制史学者。ライプチヒ大学教授等を歴任。ローマ法からゲルマン法、教会法と研究領域は幅広い。主著の『ローマ法教程』『教会法』は有名。
 (注4)マックス・ウェーバー(一八六四年―一九二〇年)ドイツの経済学者・社会学者。フライブルク、ハイデルベルク各大学の教授を歴任。彼の研究は、社会科学方法論、経済学、経済史、社会学などの広い分野にわたり、包括的な社会学体系を残した。近代資本主義の特質をプロテスタンティズムと関連させて究明したことは顕著な業績である。
 (注5)カリスマの日常化特異的、霊感的もしくはカリスマ的な諸現象が規則的、日常的(慣例的)な現象へと還元されていくことをいい、社会学において特に認められている過程。ウェーバーがこの過程を初めて概念化した。社会の配列が一貫性、リズム、秩序を達成していく全般的過程の一部をなす。
 (注6)ローマ・カトリック教会カトリック教会はローマ教皇を首長とする故にローマ教会、ローマ・カトリック教会とも呼ばれる。キリストが創立した正統の教会であることを主張する世界最大の教会である。
 (注7)プロテスタント教会十六世紀にルター、カルヴァンらの宗教改革で、ローマ・カトリック教会に反抗して成立した教会。カトリック教会の教義中心主義に対して、個人の信仰に中心を置く。
 (注8)カルヴィニズムスイスの宗教改革者カルヴァンに端を発する思想運動。カルヴァンの影響により、十六世紀のジュネーブにプロテスタント・キリスト教の一派としてのカルヴァン派が生まれた。改革派あるいは長老派と呼ばれる教派もその流れに属する。近代精神の発達に大きな影響を及ぼし、したがって社会・政治の面にも少なからぬ影響を与えた。
 (注9)社会化一般的な意味では、新生児が社会の規範をはじめとする文化全般を受け入れ、習得して、社会のさまざまな規則や習慣に適応していく過程をいう。これは直接的な外的圧力(社会の統制力)というよりも各自の(社会化された)正誤の判断力に従ってなされる。社会化の過程は、他者との社会的な相互作用を通して強化される。成人して後は、個人が新しい忠誠(信仰)の対象や新たな役割に参画する際、一定の第二次的な社会化(再社会化)を体験し、自らが、新たな信者となった宗教組織なり、職業なりの社会的規範を習得し、内面化していくことをいう。
 (注10)ピューリタン革命ピューリタン(清教徒)とは、イギリスで十七世紀後半、英国国教会の宗教的圧迫に反対し、社会の腐敗堕落を嘆いて、プロテスタントの精神を徹底させようと立ち上がった人々。日常生活における清浄・簡素・厳格な道徳的行為を主張した。一六四二年、王党派とピューリタンを主とする市民層の対立が激化し、内乱に発展、共和制が樹立された。これをピューリタン革命という。
 (注11)世俗化一般に宗教的な思想・行動・制度などが近代社会において意義や影響力を失っていくことだが、より正しくは宗教の制度、象徴の支配から社会・文化のさまざまな分野が抜け出していく過程をいう。これに対して、世俗主義とは、反宗教的なイデオロギーのことであり、さまざまな現象に対して完全に合理的な解釈を与え、精神的な目標よりも世俗的な目的を追求する思想をいう。

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