Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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後記  

「平和提言」「記念講演」(池田大作全集第2巻)

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4  また「記念講演」では、文学や思想、哲学など、その国その民族がはぐくんできた優れた精神伝統にスポットが当てられている。著者は、変化の激しい時代のなかで埋もれ去り、忘れ去られようとしている精神伝統の遺産に焦点を当て、そのエートスを汲み上げながら、仏法哲理を縦横に展開しつつ、現代文明が直面している諸問題の核心に迫り、解決への道筋を浮かび上がらせているのである。
 そこでは、歴史上の偉人や優れた知識人の言説など、その国々の精神水脈のもっとも良質な部分と仏法哲理とが、見事なまでに美しい共鳴音を奏でている。こうした著者の講演に対し、「すべてを生き生きと蘇生させる風」と称える声や、「学問的作業というよりは、人類的責務に対する作業」との賛辞九などが寄せられていることは、故なきことではない。
 「講演は、あらゆる価値観を『人間主義』へと再構築するものです。二十一世紀の思想的な展望が説得力をもって鱚やかに示されています。『哲学なき時代』の暗雲を撹い、人間と普遍的価値に光を当てた新しい地平が開かれました」(スペイン、アテネ文化・学術協会での代読講演に対し、カンタプリア大学のブラス教授)等々、その示唆深い内容に対し、数多くの識者が共感と称賛の念を語っているが、講演の内容以上に人々の心を揺り動かしたのは、著者の「人格の力」そのものであった。
 このことは、クレアモント・マッケナ大学での講演に対し、同大学のバリツアー教授が語った次の言葉に象徴されていよう。
 「池田氏は、『分断の力』に病む西洋世界を、仏教の『総体性の知恵』の光で照らしてくれました。何よりも心に残ったのは、その思想が『全人性』を備えられた氏その人によって語られたことです」
 講演で展開される鋭い洞察と卓越したビジョンが、著者みずからの実践の姿、行動の軌跡――それは、コロンビア大学での講演(九六年六月)で著者が仏法の説く「菩薩」の姿をとおし「地球市民」の要件として提示したモデル、つまり、(1)生命の平等を知る「智慧の人」(2)差異を尊重できる「勇気の人」(3)人々と同苦できる「慈愛の人」――と重なり合って、稀有の説得力と共感を生む源泉となっているのである。
 ガンジー記念館での講演終了後、ある来賓の一人が「池田氏の講演に、私は″もう一人のガンジー″を見いだした」といみじくも語ったが、この「もう一人のガンジー」との言葉には、たんなるガンジー″論者″や″研究者″ではなく、まさにマハトマをほうふつさせる人格と理想の息吹にふれた驚きと感動の念がこめられているといえよう。詩人ホイットマンは、自著『草の葉』について、こう述べた。「友よ、これは本なんてものじゃない。これに触れるものは人間に触れるのだ」(富田碎花訳、第三文明社)――と。これと同じく、著者が行ってきた一連の記念講演にも、その人格と精神が力強く脈打っているのである。
5  「未来世紀を指呼の間に望み、カオスをコスモスに転じゆく主役、機軸となるのが、『人間』であります。宗教も哲学も、文化や政治、経済も、その一点へと、収敏されていかねばならない」(九四年五月のモスクワ大学講演)と、訴える著者。本巻に収められている「平和提言」「記念講演」には、次なる千年の機軸となるべき新しき「人間主義」の思想が、そして人類がめざすべき希望と共生の「地球文明」建設の確かな指標が、旭日のごとく輝いている。
 平成十年十一月十八日

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