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日蓮大聖人・池田大作

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第27巻 「若芽」 若芽

小説「新・人間革命」

前後
56  若芽(56)
 「児童祭」では、一年生のオペレッタ(歌劇)、二年生のリズムダンス、三年生の演劇などが披露された。山本伸一は、児童の熱演と成長に目を細め、心から拍手を送った。
 あいさつに立った彼は、こう語り始めた。
 「創価小学校で学んだ人のなかから、人類を救っていくであろう指導者がたくさん出ると、私は信じております。その意味から、今は、わかっても、わからなくてもいいので、人の生き方について、お話しします」
 彼は、『イソップ物語』に出てくる「ロバを担いだ親子」の話をした。
 ――市場にロバを売りに行くため、親子がロバを引いて歩いていると、村の娘たちが、「ロバに乗っていけばいいのに」と笑った。
 それを聞いて、父親は、子どもをロバに乗せて歩き始める。すると、やって来た父親の友だちに、「子どもを甘やかしてはいけない」と注意される。父親は子どもを歩かせ、自分がロバに乗る。しばらく行くと、若い女性から、「自分は楽をして、小さい子どもを歩かせるなんて、ひどい父親だ」と非難される。親子は、二人でロバに乗る。
 さらに、教会の前で牧師から、「ひどい親子だ。ロバが疲れて弱っているじゃないか」と言われる。紛動されやすい親子は、どうしていいかわからない。牧師が「ロバを担いであげなさい」と言うので、ロバの足を棒にくくりつけ、担いで歩き始める。しかし、橋を渡る途中、逆さにつるされたロバは苦しくて暴れだし、川に落ちて流されてしまうのだ。
 伸一は、周囲の無責任な声に振り回されることの、愚かさを伝えたかったのである。
 民衆の幸福のために立ち上がれば、誤解や嫉妬から、非難や中傷を浴びるものだ。その時に、紛動されることなく、信念に生き抜いてこそ、人間の正義は貫かれることを知ってほしかった。
 日蓮大聖人は、信念に生きる至高の人間の生き方を、こう表現されている。
 「師子王は百獣にをぢず・師子の子・又かくのごとし
57  若芽(57)
 東京創価小学校の開校一年目は、創立者の山本伸一と、さまざまな黄金の思い出を刻みながら、堅固な建設の礎を築くことができた。
 開校二年目となる一九七九年(昭和五十四年)四月、希望に胸を膨らませて、新入生が″創小″に集ってきた。
 伸一は、この四月の二十四日、創価学会第三代会長を辞任する。彼の胸には、自身が最後の事業と定めた、人類の平和を実現しゆく創価教育に、ますます力を注ぎ、生涯を捧げていこうとの決意が燃え盛っていた。
 会長辞任を前にした四月九日の第二回入学式へのメッセージに、伸一は、こう記した。
 「何があっても負けない子になってください。どんなにつらくとも泣き虫ではなく、心に太陽をもって進んでいく子であってほしいのです」
 ひとたびは華やかな勝者としてスポットライトを浴びても、打ち続く人生の試練に打ちのめされてしまえば、結局は敗者となる。負けない強い心をもった人こそ、真の勝者だ。
 ドイツの文豪ヘルマン・ヘッセは綴った。
 「人間の本性は、逆境に陥ったときにはじめてはっきりと現れてくる」
 東京創価小学校から最初の卒業生が巣立っていったのは、一九八二年(昭和五十七年)三月であった。卒業式で伸一は、訴えた。
 「『平和』の二字だけは生涯忘れてはならない」「『平和』というものをいつも念頭において、一生懸命、力をつけてもらいたい、これが私のお願いです」
 教育も、文化も、宗教も、すべては、人間の幸福のためにあり、平和のためにある。
 創価教育の使命もまた、人びとの幸せのために、社会に貢献し、世界の平和を創造していける人材を育むことにある。
 創価教育の父・牧口常三郎は、その平和への道筋は、軍事的競争、政治的競争、経済的競争を経て、人道的競争の時代にいたることを予見している。それを担う、人類益的視野に立った人材の育成を、伸一はテーマとし、願業としていたのである。
58  若芽(58)
 東京創価小学校の校長・新木高志から、巣立っていく卒業生の同窓会に名前をつけてほしいと要請された山本伸一は、「創栄会」と命名した。そこには、創価教育の栄光を担って立つ逸材の集いとの意義が込められていた。
 第一期卒業生の中学進学の年となった一九八二年(昭和五十七年)四月、創価中学・高校は、男子校から男女共学となって、新しい出発を期した。
 一方、関西には、この年、大阪府枚方市に関西創価小学校が開校している。
 また、交野市の創価女子中学・高校も、関西創価中学・高校と校名を変更するとともに、男女生徒を受け入れることになった。
 創価一貫教育は、万全な体制を整え、二十一世紀に向かって、大きく翼を広げたのだ。
 羽ばたけ!
 創価の学舎に集いし鳳雛たちよ!
 君らこそ、わが命なり。わが希望なり。
 君たちの故郷は「地球」。
 国籍は「世界」。民族は「人間」だ。
 天空を突き抜ける
 気高き「志」をいだき、
 眼前の課題に
 忍耐強く、情熱を燃え上がらせ、
 喜々として挑む、負けじ魂の君たちよ!
 努力なくして大成はない。
 苦闘なくして勝利はない。
 未来は君の腕にある。
 猜疑と憎悪に分断された人の心を結び、
 笑みの花咲く平和の沃野を、
 断じて、断じて、開きゆくのだ。
 私は嬉しい。
 君たちがいるから。
 私は楽しい。
 君たちがいるから。
 私は幸せである。
 君たちがいるから。

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