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日蓮大聖人・池田大作

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第22巻 「潮流」 潮流

小説「新・人間革命」

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64  潮流(64)
 七月二十九日の午後、山本伸一は、コンベンションを陰で支えてくれた役員らの激励に、ハワイ会館を訪れた。感謝の思いを伝え、少しでも慰労したかったのである。
 「感謝の念も、ただ心の中で思っておるだけのものであれば、それは実践のない信仰と同じで死物に過ぎぬ」とは、スペインの作家セルバンテスの警句である。
 会館に到着した伸一は、共に勤行し、健闘を讃えたあと、簡潔に語った。
 「信心の基本は、どこまでも題目と教学と学会活動です。それを根本に、同志と仲良くスクラムを組んで、次の目標に向かって、楽しく進んでいってください。
 皆さんが和気あいあいとしたご家庭を築き、それぞれの生活を盤石にしていかれるよう祈っております」
 さらに、会館の中庭で、四百人のメンバーが参加し、ガーデンパーティーが行われた。
 庭の一角には、バーベキュー用の焼き台が置かれ、数人の婦人たちが、肉やソーセージを慌ただしく焼いていた。
 伸一は、庭に出ると、真っ先にこの台の前に立った。
 「今日は、皆さんがお客様です。私が感謝の心を込めて、おもてなしいたします」
 こう言うと彼は、肉を焼き始めた。
 ジュージューと脂のしたたる肉を、素早くひっくり返し、皆の皿に取り分ける、彼の鮮やかな手さばきに、皆の笑みがこぼれた。
 やがて、特設ステージで、メンバーによるハワイアンダンスが始まった。
 伸一も峯子と一緒に、演技を見守り、拍手を送った。
 この会場には、ドミニカ共和国のゴイコ・モラレス副大統領らが、帰国のあいさつに訪れていた。副大統領は伸一に握手を求めた。
 「山本会長は、一人の人間を大切にするなかに、世界の平和があると主張されている。実際に会長は、その言葉通りに自ら行動されている。
 言葉と事実の一致があります。実に偉大なことです。これは、誰にでもできることではありません」
65  潮流(65)
 ドミニカ共和国のゴイコ・モラレス副大統領は、笑顔で、山本伸一に語った。
 「ハワイとドミニカ共和国は、気候も風土もよく似ています。
 私はハワイのSGIメンバーの姿を見て、ドミニカの未来に自信をいだきました。人びとが希望に燃え、はつらつとしていくならば、どの国も発展するし、幸せな国になれるという原理を学んだからです。
 私どもは、山本会長の精神面でのアドバイスを求めています。一日も早く、ドミニカにいらしてください」
 語らいは尽きなかった。伸一は、副大統領夫妻らを、メンバーと共に盛大な拍手で送ったあと、メンバーの輪の中に入り、労をねぎらい、一人ひとりと握手を交わしていった。彼の全身から、汗が噴き出していた。
 「ありがとう! また、お会いしましょう」
 「君の成長を楽しみにしているよ」
 わが生命を吹き込む思いでの激励である。
 世界平和の潮流といっても、人間主義の旗を掲げ持つ、人材群が育つかどうかで決まってしまう。そのためには、一瞬一瞬の励ましこそが、勝負なのだ。
 皆を激励した伸一と峯子は、メンバーに送られ、車に乗った。会館の門のところに来ると、アロハシャツを着た日系人の青年が警備をしていた。
 伸一は、車を止めてもらい、窓を開けた。
 同乗していたアメリカの幹部が言った。
 「彼はバーナード・カワカミです。先生のハワイ初訪問の折、先生を訪ねて、両親と一緒にホテルに来ておりました。記念に袱紗もいただいています。当時はまだ、小学生でした。彼の姉は、ハワイの女子部長です」
 伸一は満面の笑みで、握手を交わした。
 「ありがとう。立派な指導者に育ってください。あなたの未来を見守っています」
 十五年前の苗木は今、緑茂る樹木に育ち、ハワイの大地に根を張っていたのだ。平和の新しき潮流が起ころうとしていたのである。

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