Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第19巻 「宝塔」 宝塔

小説「新・人間革命」

前後
47  宝塔(47)
 ″よし、ぼくも真剣に信心をしてみよう!″
 勝谷広幸は思った。
 彼は盲学校に復帰し、寮生活に戻ると、放課後は近くの学会員の家に行き、勤行をさせてもらうなどして、信心に励んだ。
 座談会に出ると、皆が息子や弟のように、温かく励ましてくれた。
 ″これが学会の世界なのか! 信仰で結ばれた同志の世界なのか!″
 勝谷は感嘆した。
 さらに教学を学ぶなかで、大聖人は自分が幸せになるだけでなく、人びとを救済するために、広宣流布に生きよと教えていることを知った。
 皆が地涌の菩薩であり、末法の衆生を救うために、この世に出現したと説いているのだ。
 ″目が不自由なぼくも、地涌の菩薩なのだ。みんなを幸せにしていく使命があるのだ!″
 それは、彼にとって、この世に生を受けたことの、深き意味の発見であった。
 使命を自覚する時、人間の生命は蘇生する。その時、真の主体性が確立されるのだ。
 勝谷は、学会活動に参加すると、生命が躍動し、元気になっていくのを感じた。
 さらに、以前は、すぐにひがんだり、挫けたりしていたが、物事に前向きに取り組んでいけるようになっていった。
 やがて彼は、マッサージや鍼、灸の免許を取得。病院に勤務し、リハビリ治療などを行うようになった。
 また、視覚障害のあるメンバーと連携を取り合って励ましを重ね、「自在会」の結成にも力を尽くしてきたのである。
 山本伸一は、新しい脱脂綿を水に浸し、ほてった勝谷の顔も拭いた。
 勝谷は、なんとも言えない、さわやかな気分になった。
 「こんなことまでしていただいて、申し訳ありません」
 「よく頑張ってきたね。君の輝いた姿を見ればわかるよ」
 勝谷は、意を決したように語った。
 「先生。実は、もうすぐ子どもが生まれます。広宣流布のお役に立つように育てます」
 彼は前年の十月に、結婚していた。妻も大きなお腹をして、彼に付き添って参加していた。
 「おめでとう! 立派な広宣流布の後継者に育ててください」
48  宝塔(48)
 山本伸一は、脱脂綿を取り替えては、何人かの、泣いて赤く腫らした瞼を拭き、励ましの言葉をかけていった。
 皆、大切な兄弟である。伸一は、メンバーのためなら、どんなことでもするつもりであった。
 その伸一の心を感じ、メンバーはさらに、目を潤ませるのであった。
 伸一は、会場の前方に戻ると、皆の顔に、じっと視線を注いだ。
 「これで全員の顔を覚えたよ」
 その時、メンバーの一人が大きな声で言った。
 「先生! 私たちのつくった愛唱歌を聴いてください」
 「はい。聴かせていただきます」
 ギターの調べに合わせて、皆の歌声が響いた。
 当時、ヒットした歌謡曲の替え歌であった。
 一人ぼっちで夕暮れの 海をながめて 泣いていた
 あなたが今では 誰よりも 明るい地域の太陽よ
 皆の顔は涙に濡れていたが、その声は明るく、はつらつとしていた。
 歌い終わると、伸一は言った。
 「いい歌だね。もう一度歌ってよ」
 メンバーは、さらに力を込めて熱唱した。
 伸一は、大きな拍手を送った。
 「ありがとう! 
 この歌を吹き込んだカセットをください。私は三日後に中国に出発します。そのカセットを持っていって、毎日、聴きたいんです」
 歓声があがった。
 「では、次の予定があるので、これで失礼しますが、最後に皆で題目を三唱しましょう」
 彼は、メンバー一人ひとりを、尊極なる仏と仰ぎ、最敬礼する思いであった。
 「毅然として頭を上げるがよい。私の生命は飾り物ではなく、それを生きるために与えられたのだ」とは、トルストイが記したエマソンの言葉である。
 伸一は心で叫びつつ、題目を唱えた。
 ″君でなければ、あなたでなければ、果たせぬ尊き使命がある。
 その使命に生き抜き、広宣流布の天空に、尊厳無比なる宝塔として、燦然と、誇らかに、自身を輝かせゆくのだ!″

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