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日蓮大聖人・池田大作

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第17巻 「緑野」 緑野

小説「新・人間革命」

前後
47  緑野(47)
 北海道広布を切り開いてきた人びとの苦労を、山本伸一は誰よりもよく知っていた。
 同志たちは、病苦、経済苦、家庭不和など、さまざまな悩みを抱えながら、広宣流布の尊き使命に奮い立ち、厳寒の雪道を折伏に歩いた。食事代は、しばしば学会活動の交通費に変わった。
 だが、同志は、広宣流布のためには、すべてをなげうつ決意であった。
 その胸には、仏の使いとしての誇りがあふれていた。歓喜の闘魂が、赤々と燃え上がっていた。
 あの夕張の炭鉱にあっても、わが同志は、嘲笑され、罵倒され、組合から締め出されるという卑劣な仕打ちを受けながら、堂々と戦い抜いた。
 同志は常に″負けるものか!″と、歯をくいしばりながら、仏法の真実と学会の正義を叫び抜いてきた。命の限り、気迫の対話を重ねた。
 執念の行動であった。それが、闇夜を開く、逆転勝利の閃光となったのだ。この執念に創価の魂がある。
 そして、今、「広布第二章」を迎え、学会は隆々たる大発展を遂げ、民衆の凱歌は、高らかに轟き渡った。
 その庶民の英雄たちを未来永遠に讃え、名を残し、尊き足跡をとどめるために、伸一は、「北海道広宣流布の碑」と北海道の広布史をつくる提案をしたのである。
 この日、青年たちへの彼の激励は、間断なく続けられた。
 学生部の代表とは、共に入浴し、トインビー博士との対談などに触れながら、学問探究の姿勢や青年の生き方について語った。
 函館青年文化連盟のメンバーは、ヨーロッパ訪問、国内の指導行と続く伸一の激闘に感嘆していた。そして、″せめて、この日だけでも、くつろいでほしい″との思いから、彼に浴衣をプレゼントした。
 伸一は、青年たちの、その真心が嬉しく、ありがたかった。さっそく彼は、感謝の思いを歌に詠み、メンバーに贈った。
  美しき
    心しみいる
      浴衣きて
    友どち護ると
      我れは指揮とる
 広宣流布の緑野は、自分をなげうつ思いで、皆の胸中に、使命の種子、勇気の種子を、植え続けてこそ広がるのである。
48  緑野(48)
 翌二十七日も、山本伸一は、場所を駒ヶ岳山麓の高原に移して、青空の下、北海道の各部代表幹部と、約三時間にわたって懇談会を開いた。
 「大変にご苦労様です。さあ、新しい出発だ。未来に向かい、力強い前進を開始するために、青空会議を始めよう!」
 伸一は、各部の活動の様子を尋ねていった。
 小鳥のさえずりがこだまするなかでの、希望広がる懇談会となった。
 樹間を渡る初夏の風がさわやかであった。
 伸一は、皆の話を聞くと、確信に満ちあふれた声で言った。
 「開拓精神みなぎる北海道は『広布第二章』の電源地になるでしょう。その意味から、『広宣流布は北海道から』との言葉を、前進の合言葉として贈りたい!」
 「はい!」という喜びのこもった、賛同の声がはね返ってきた。
 また、北海道にあっても、森林や湿原が減り、自然破壊、環境破壊が進んでいるとの報告に対して、伸一はこたえた。
 「すぐに、緑を植える運動を起こしましょう。たとえば、学会員の子どもが生まれたら、誕生を記念し、未来の大成を願って、研修所や高原などに木を植えるんです。広布後継を願っての記念植樹です。
 また、草創の同志の功労を讃えて、若木の植樹をしてもよい。
 それを広げていけば、壮大な植林事業になります。だから私は、これまでも、折あるごとに記念植樹をしてきたんです。
 仏法は草木成仏を説いている。草木にも『仏』の生命を見て、大切にするのが仏法の思想です」
 社会のために、何を行うか――そこに、立正安国の実現に生きる仏法者としての、伸一の視点があった。
 彼は言葉をついだ。
 「釧路市に丹頂鶴自然公園があるが、かつてタンチョウは絶滅の危機に瀕していた。そのタンチョウを保護しようと、自然公園開設のための寄付を募ったことがあった。それを聞くと、戸田先生は、こう言われた。
 『大事なことだ。人間は、自分たちが地上の支配者であるかのように思い上がり、自然を破壊していけば、やがて大変なことになる。
 自然を守ることが人間を守ることにもなる。依正不二ではないか』」
49  緑野(49)
 山本伸一は、戸田城聖をしのぶように、目を細めながら話を続けた。
 「戸田先生は、タンチョウ保護のために、その時、金五十万円を寄付された。丹頂鶴自然公園開園の一年前にあたる昭和三十二年(一九五七年)のことです。まだ、公務員の初任給が一万円もしない時代です。
 私たちも自然保護に力を注ごう。それには、植樹などとともに、自然を大切にする仏法の思想を人びとの心に打ち立てていくことが大事です。
 その先陣を、大自然に恵まれた北海道の皆さんが切ってください。
 北海道を、『緑の寂光土』にしようではありませんか。仏法者として、新たな社会貢献の道を切り開いていくのが、『広布第二章』なんです」
 環境保護への伸一の構想は、日本国内はもとより、やがてSGI(創価学会インタナシ
 ョナル)各国に広がっていった。
 そして、ブラジルSGIの「アマゾン自然環境センター」の設立をはじめ、各国の植樹運動や環境教育運動となり、未来を開く、持続可能な環境保護運動の潮流となったのである。
 ――二〇〇五年(平成十七年)二月、伸一は、ノーベル平和賞の受賞者で、ケニアから広がった植樹運動「グリーンベルト運動」の指導者ワンガリ・マータイ博士と会見した。
 席上、彼女は、伸一に語った。
 「皆様が、仏教の教えにもとづいた深い価値観をもっていることに感銘しています。しかも、これらの価値観が、社会に根を張っている。
 皆様の思想は『生命を大切にする』思想です。『自然を大切にする』思想です。『人間の生命と社会を大切にする』思想です」
 そして、伸一が、その大切な価値観を何百万人もの人に広めたことに、「心から最大の感謝を捧げたい」と述べた。
 彼女は毅然と訴えた。
 「未来は未来にあるのではない。今、この時からしか、未来は生まれないのです。将来、何かを成し遂げたいなら、今、やらなければならないのです」
 それは、伸一の一貫した信条であり、彼の魂の叫びでもあった。

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