Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第16巻 「羽ばたき」 羽ばたき

小説「新・人間革命」

前後
68  羽ばたき(68)
 正本堂が破壊されていると聞いて、耳を疑い、自分の目で、直接、確かめようと、全国各地から正本堂を見に来た人も少なくなかった。
 夫を失い、女手一つで三人の子どもを育てながら供養に参加した北九州の老婦人は、長男夫婦と孫と一緒に東京に向かう途次、富士宮に立ち寄った。
 長男は、大学生の子どもをもつ、壮年になっていた。
 大石寺がよく見える畑の傍らで車を降りた。皆、変わり果てた正本堂の姿に息をのんだ。
 屋根もなく、壁も削られ、剥き出しの鉄骨が見えた。時折、「ゴゴーン」という音が響き、もうもうと土埃が上がっていた。
 残ったコンクリートの梁と柱が、天に向かって悲痛な叫びをあげる巨大な口のように思えた。
 皆、しばらくは言葉を失い、その光景を黙って見ていた。
 白髪の老婦人の背中がぶるぶると震えた。
 ―昼は魚の行商、夜は清掃の仕事をして働き、毎日、爪に火をともすように節約を重ね、供養に参加した日のことが彼女の頭をよぎった。
 辛いといえば辛い日々であった。しかし、彼女は、正本堂は、やがて「本門の戒壇」となり、世界中の指導者が、民衆がここに集い、平和への祈りを捧げるのだと思うと、どんな苦労も喜びに変わるのであった。
 だが、その正本堂が、今、無残この上ない姿をさらしているのだ。
 彼女の目には、涙があふれていた。
 それは、自分の人生の誇りを、信心の赤誠の証を、踏みにじられたことへの悔し涙であり、煮えたぎるような怒りの熱い血涙であった。
 しかし、老婦人は、決然と涙を拭うと、叫ぶように言った。
 「日顕はうちらを騙して、大聖人の御遺命の戒壇を、本門の戒壇を、ぶち壊しよる。信心の真心を、土足で踏んづけて、粉々にしてから!
 人間のやるこっちゃない。天魔や。第六天の魔王や!
 こんな悪坊主がのさばっちょると、仏法が滅んでしまう。みんなが不幸になる!
 うちは許さん。絶対に絶対に許さんけね!」
 怒りは、破邪顕正の炎となって、激しく燃え上がっていった。
69  羽ばたき(69)
 老婦人の言葉を受けるようにして、傍らの息子が口を開いた。
 彼は、正本堂の供養の時は中学生だったが、自ら新聞配達を始めて、供養に参加したのだ。
 「おふくろ、俺も日顕は絶対に許さん!
 純粋な学会員を利用するだけ利用しとって、供養を搾り取り、そして、裏切りよった。
 それに、誰よりも広宣流布に、宗門に尽くした大功労者の山本先生を切り捨て、仏意仏勅の広宣流布の団体である学会をつぶそうとした。
 『彼の万祈を修せんよりは此の一凶を禁ぜんには』だ。日顕一派を打ち倒さんと、仏法破壊の根っこは断てん」
 隣にいた大学生の孫も老婦人に言った。
 「学会は宗門と離れてよかった。″現代の身延離山″をしたことになるんやけ。
 信徒を平気で見下したり、″伏せ拝″とか言うて、日顕を見たら土下座するような宗教なんかおかしい!」
 老婦人が、笑みを浮かべて頷いた。
 「本当にそうやね。
 仏法は勝負だ。うちらはすべてに勝って、必ず学会の正義を証明しちゃるわ!」
 彼方には、秋空に悠然とそびえる、富士の姿があった。
 孫が言った。
 「ばあちゃん。ほら、あそこの家に、三色旗が立っちょるよ」
 一軒の民家に、学会の三色旗が堂々と掲げられ、風に翻っていた。
 ″学会の正義は厳たり。邪宗門と断じて戦わん″との決意を込めて、大石寺周辺でも、創価の同志は、厳然と三色旗を掲げていたのだ。
 御遺命の戒壇となる正本堂を日顕は破壊した。
 しかし、正本堂の建立は、御本仏日蓮大聖人を荘厳したのだ。その功徳、福運は無量無辺であり、永遠に消えることはない。
 一方、日顕宗は、正本堂の破壊をもって、天魔の本性をさらけ出し、邪教であることを自ら証明したのである。その罪もまた、未来永遠に消えることはない。
 学会は、宗門による暴虐の嵐を勝ち越え、人間主義の世界宗教として二十一世紀の大空へ、雄々しく飛翔していったのである。

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