Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第13巻 「北斗」 北斗

小説「新・人間革命」

前後
52  北斗(52)
 確信に満ちた伸一の声が返ってきた。
 「大丈夫です。皆、深い使命があって生まれてきているんです。息子さんが、生涯、強盛な信心を貫いていくならば、必ず幸福になります。息子さんは来ているの?」
 「はい」
 母親は、振り返って、息子を探した。後ろの方で学生服姿の少年が、小さく縮こまるようにして座っていた。
 「あれが息子です」
 「じゃあ、前にいらっしゃい! よく来たね」
 伸一に言われて、息子は、恥ずかしそうに前に出て来た。
 少年は、座談会に参加するのが嫌だった。大勢の人の前に出ると、疲れてしまうのだ。それに、幹部の難しい話は聞きたくないという思いが強かった。だから今日も、母親から座談会があると聞かされていた彼は、わざと遅く家に帰るようにした。ところが、帰る途中に母親と出くわしてしまい、仕方なく、一緒に参加したのだ。
 彼は、前に来るように言われた時、座談会なんかに来なければよかった、と思った。
 伸一は、少年を自分の横に座らせた。
 「どっちの手が不自由なの?」
 「こっちです」
 うつむきながら、右手を差し出した。
 伸一は、その手を両手で包み込むように、ギュッと握り締めた。そして、心のなかで叫んでいた。
 ″何があっても負けないで、強く、生き抜くんだ! わが人生の勝利者になり、必ず幸福になるんだ!″瞬間、伸一の口から題目が漏れた。少年の成長を願う強い思いが、祈りとなったのだ。
 「スポーツは何が好きなの?」
 上目遣いに伸一の顔を見て、少年は答えた。
 「野球をするのが好きです」
 「野球ができるのか。そりゃあ、たいしたものだな。それなら、もう、治っているようなものじゃないか」
 少年の顔に、穏やかな微笑が浮かんだ。
 「大変なこともあるだろうが、挫けて、自分に負けてはいけないよ。本当に強い人というのは、自分に負けない人のことなんだ」
53  北斗(53)
 少年は顔を上げた。その瞳が輝きを放った。母親の目は、感涙に潤んでいた。伸一は語った。
 「小児マヒであった君が、明るく元気で、勇気をもって幸福な人生を生き抜いていけば、同じ病気に苦しむ、多くの人の希望になるじゃないか。それは、君でなければできない、君の使命でもあるんだ。使命を自覚すれば、歓喜がわき、力があふれる。その根本が信心なんだよ。だから、何があっても、しっかり信心していくんだよ」
 「はい!」
 弾んだ声であった。
 「君には、念珠をあげようね」
 念珠を受け取る少年を拍手が包んだ。
 「よかったわね」
 「頑張れよー」
 あちこちから、声援が起こった。そこには、創価家族の温かさがあった。この座談会でも、さまざまな質問が続いた。家族のことで悩む、女子部員の相談もあった。心臓病など、幾つもの病をかかえた壮年の質問もあった。
 伸一は、その一つ一つに真剣勝負で臨んだ。そして、友の顔に微笑が浮かび、瞳が決意に燃え輝くたびに、励ましと賞讃の拍手が広がった。
 フランスの歴史家ミシュレは言った。
 「生命は自らとは異なった生命とまじりあえばまじりあうほど、他の存在との連帯を増し、力と幸福と豊かさを加えて生きるようになる」
 人間は、人間の海のなかで、励まし合い、触発し合うことによって、真の人間たりえるのだ。学会の座談会は、まさに、人間の勇気と希望と歓喜と、そして、向上の意欲を引き出す″人間触発″の海である。
 山本伸一が率先して、座談会を駆け巡っている様子や、その語らいの詳細が機関紙誌に報道されると、学会中に大きな波動が広がった。運営にあたる幹部をはじめ、皆の決意と意識が一新された。活気にあふれ、企画も創意工夫に富み、充実した座談会が、全国各地で活発に開催されるようになった。
 民衆の蘇生の人間広場である、「座談会革命」がなされたのである。

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