Nichiren・Ikeda
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48 光彩(48)
一行は、橋本浩治らの案内で、バイキング船博物館や、北極と南極に行ったことで知られるフラム号を展示した、フラム号博物館なども見学した。
昼過ぎにホテルに戻り、オスロの空港に行くと、橋本の妻の恵子も、子供を抱いて、見送りに来てくれていた。
山本伸一の妻の峯子が、恵子に声をかけた。
「どうも、橋本さん、このたびは、大変にお世話になりまして、ありがとうございました」
そして、恵子が抱いている子供を見て尋ねた。
「かわいいお子さんですね。いつ、お生まれになったんですか」
「今年の二月です」
峯子は、その子を抱き上げた。子供は、無邪気な笑い声をあげた。
伸一を囲んでの、和やかな語らいが始まった。
伸一は、橋本夫妻に語りかけた。
「ノルウェーは、いいところだね。何度も来たいところです」
すると、恵子が喜びの声をあげた。
「本当ですか! ぜひ、そうしてください」
伸一は、恵子に微笑を向けて言った。
「ありがとう。でも、残念ながら、そうもいかないので、私は、いつも、いつも、皆さんのことを祈っていきます」
それから、橋本の目を見つめ、力を込めて語った。
「橋本さん、あなたは、このノルウェーの地で、人生の幸福の大輪を咲かせていってください。
それぞれの国で、誰か一人が立ち上がれば、幸福の波が広がっていきます。あなたが立てばいいんです。
あなたは、南国のセイロン(現在のスリランカ)から、北欧のノルウェーに、調理人としてやって来た。しかし、それは、決して偶然ではない。
仏法の眼で見るならば、この地で幸せの実証を示すとともに、この国の社会に貢献していくためです」
橋本は、真剣な顔で、伸一の話を聞いていたが、決意のこもった声で言った。
「先生、私は、生涯、ノルウェーの人びとの幸福のために、生き抜いていきたいと思います」
「あなたの、その言葉を聞けば、ここに来た私の目的は、すべて達せられた。
ありがとう!」
伸一と橋本は、固い、固い握手を交わした。
魂を注がずしては、人に触発をもたらすことは、決してできない。
全生命を振り絞り、一念を尽くして、一人ひとりへの励ましを続ける、伸一の旅であった。
49 光彩(49)
山本伸一の一行は、ノルウェーのあとは、デンマークのコペンハーゲンに一泊し、ここでも建築物の視察などをすませ、午後六時半、空路、帰国の途についたのである。
人を励まし、勇気づけ、使命の種子を芽吹かせる作業は、地味であり、多大な労力を必要とする。
皆、なかなか、その尊き意義に気づかない。
たとえ、気づいたとしても、労作業ゆえに、回避しようとする。
だが、どこまでも、一個の人間を見つめ、人間を信じ、人間の光彩を引き出すことからしか、人類の平和の夜明けは始まらないというのが、伸一の不動の信念であった。
機内は、食事が終わって間もなく、明かりが消された。眠りにつく人も多かった。
伸一は、一人、思索のひと時を過ごした。
――結成の決まった公明党をどうするか、この年の総仕上げをどうするかなど、彼の頭は、目まぐるしく回転していた。
しばらくすると、機内放送が、オーロラ(極光)が見えると伝えた。
伸一の隣の席にいた正木永安が、後ろに座っていた白谷邦男に語りかけた。
「白谷さん、オーロラが見えますよ」
しかし、白谷は、眠っているようであった。
「白谷さん、起きた方がいいですよ。こんな機会は、滅多にありませんよ」
起こそうとする正木を、伸一は笑いながら制した。
「寝かしておいてあげなさい。疲れているんだよ」
それから、伸一は、窓の外を眺めた。彼は、思わず息をのんだ。
見事なオーロラであった。暗闇のなかに雲海が広がり、その上に、白いベールに似た美しい光が、波のようにうねっていた。
じっと、目を凝らしていると、その光は、黄色みを帯び、また、青みがかっても見えた。
きらめく星々が、ベールにちりばめられた、ダイヤモンドのようである。
オーロラの妙なる光は、刻々と変化していく。それは大宇宙の詩を思わせた。
伸一は、思った。
――かくも美しく、オーロラは輝く。宇宙は、こんなにも輝きに満ちている。小宇宙である人間もまた、本来、まばゆい光に満ちているはずである。
その人間の光彩をめざして、人間のなかへ、生命のなかへ、私は励ましの旅を、断固として続けよう。
人類の闇を開くために、輝ける人間の勝利の時代を開くために――。
(この章終わり)