Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

第4巻 「凱旋」 凱旋

小説「新・人間革命」

前後
35  凱旋(35)
 山本伸一が演壇に立ち、参加者に一礼すると、嵐のような拍手がやんだ。
 静寂が一瞬、場内を包んだ。大勝利を飾った凱旋将軍の、再びの出発の大獅子吼を、人びとは固唾を飲んで待った。
 伸一は、冒頭、日達上人の総会への出席に、深く感謝の意を表した後、力強い声で語っていった。
 「第二十三回総会を、全国の同志を代表して集まられた幹部の皆様方と、元気いっぱいに開催できましたことを、心より喜び合いたいと思います。
 霊山におられる恩師戸田城聖先生も、この様子をご覧になって、『あっぱれ、わが弟子よ!』と、莞爾としておられることを、私は強く確信する次第でございます。
 創価学会のごとく、大哲学を掲げ、不幸な人びとの真実の味方となって、慈悲と確信と鉄の団結を持って、人類の平和のために前進している団体が、教団が、世界のどこにあるでしょうか。
 私は、創価学会こそ″日本の柱″であり、″世界の太陽″であると、宣言したいのであります」
 伸一の胸中には、どこまでも民衆の味方となって、日本を救い、世界を救いゆく団体は、創価学会しかないという、強い自負と確信があった。
 彼は、ここで、涅槃経に説かれた覚徳比丘と有徳王について言及していった。
 覚徳比丘は、過去世に歓喜増益如来という仏が出現し、その滅後、あと四十年で正法が滅んでしまうという時に、正法を守り、持ち抜いた僧である。
 覚徳比丘は、決然と立ち上がり、正法を説き、戒律を破る者たちを戒めた。すると、悪僧たちは、刀や杖を持って、彼を殺そうと迫っていった。
 正法の外護者である国王の有徳は、それを知ると、法を守り、覚徳比丘を助けるために果敢に戦った。
 それによって、覚徳比丘は難を免れたが、有徳王は戦いのなかで殺されてしまう。
 有徳王の体には、傷のないところは芥子粒ほどもなかった。それほど壮絶な戦いを展開したのである。
 この功徳によって、有徳王は、やがて阿閦仏あしゅくぶつの国に生まれて第一の弟子になり、覚徳比丘は第二の弟子となったと説かれている。
 有徳王は、釈尊の過去世の修行中の姿を示すものであるが、現代で言えば、現実の社会のなかで戦い、生きる、死身弘法の在家の仏法指導者と言ってよい。
 また、これは、まさに仏法が滅せんとする時の、信仰者の心構えを説くとともに、正法を守ることの功徳の大きさを教えている。
36  凱旋(36)
 山本伸一は、この有徳王と覚徳比丘について述べ、こう語っていった。
 「私ども創価学会は、日夜、朝な夕な、不幸な人びとを救おうと折伏に励み、教学に、座談会にと、懸命に取り組んでおります。また、総本山、日達上人をお守り申し上げております。
 この創価学会の姿、精神こそ、仏法の方程式のうえから、有徳王の姿であり、有徳王の精神であると、私は強く信ずるものでございます」
 伸一は、話しながら、戦時中、宗門が謗法に染まり、腐敗、堕落していったなかで、正法正義を貫いて殉 教 した牧口常三郎のことが頭をよぎった。
 牧口の振る舞いは、有徳王のみでなく、覚徳比丘の姿でもあったのではないかと、彼はふと思ったが、それには触れなかった。
 伸一は、将来、いかなる時代、いかなる状況に置かれたとしても、学会は死身弘法の精神で、日蓮大聖人の仏法の正法正義を守り抜くことを決意していた。
 彼は、言葉をついだ。
 「思えば、昨年の五月三日、この壇上において、日達上人より、『詮ずるところは天もすて給え諸難にもあえ身命を期とせん』との御聖訓を頂戴いたしました。
 今、その御聖訓を、もう一度、胸に刻んで、勝って兜の緒を締めて、親愛なる皆様方のご協力を賜りながら、来年の五月三日を目指し、更に、一歩前進の指揮をとっていく決意でございます。
 願わくは、皆様も私とともに、御本尊様を抱き締めて、広宣流布への勝利の歩みを、貫き通していっていただきたいのであります。
 以上で、私のあいさつに代えさせていただきます」
 歓声と大拍手がドームにこだました。
 黄金の凱歌の年輪を刻んだ学会は、今、再び第二年へと船出したのである。
 学会歌の大合唱のなかを退場する伸一の胸には、闘魂の炎が鮮やかに燃え盛っていた。
 彼が進もうとする広宣流布の道は、失敗も、後退も許されなかった。いかなる困難が待っていようが、連続勝利をもって踏破しなければならない。
 伸一は、それが、避けることのできない自己の使命であることを、深く自覚していた。
 彼は、大鉄傘の高窓から差し込む光を仰いだ。
 ″暗雲の上にも、いつも太陽は燦然と輝いている。私の太陽は戸田先生だ。その太陽を心にいだいて、先生の弟子らしく、この一年もまた、走りに走ろう″
 光に照らされた彼の顔に、さわやかな微笑が浮かんだ。

1
35