Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第2巻 「錬磨」 錬磨

小説「新・人間革命」

前後
40  錬磨(40)
 朝靄が晴れると、澄み切った秋空が広がっていた。
 九月二十三日、全国体育大会第三回「若人の祭典」が東京の国立競技場で開催された。
 山本伸一は、午前八時過ぎには会場に姿を現した。開会までには、まだ、三、四十分も間があった。
 「やあ、おはよう。ご苦労様!」
 車から降りると、彼は、役員の青年に声を掛けた。
 伸一は控室に向かったが、途中、何度も足を止めては、青年たちに声を掛けていった。
 「ありがとう、朝早くから。朝食はすませたの?」
 「はい!」
 「うまく休みながら、疲れないようにね」
 彼は、暗いうちから準備に当たってきた役員の青年たちを、少しでも励ましたかったのである。
 伸一の目は、華やかなスポットライトを浴びる人よりも、むしろ、その背後で、黙々と働く青年たちに向けられていたといってよい。
 八時四十五分、選手三千人が整然と入場し、開会式が始まった。
 開会宣言、大会旗の″若獅子旗″掲揚に続いて、総本山からリレーで運ばれた「黎明の火」を掲げた走者が入場。沸き起こる大拍手のなか、聖火台に「黎明の火」がともされた。
 開会式が終わった。ヘリコプター三機が上空を旋回し、一千羽の鳩が大空に放たれた。競技の開始である。地方大会の予選に勝ち残った代表選手によって、男子四百メートル走、女子二百メートル走、男子八百メートル走と、激戦が展開されていった。
 男子一万メートルの走者が場外へ飛び出すと、フィールドでは、女子部のダンス「体育賛歌」が始まった。はつらつとした躍動の舞が、赤や黄などの輪になって広がると、フィールドは美しき人華の花園となった。
 続いて男子部の組み体操へと移った。″やぐら″″ブリッジ″″円塔″などが次々に組み上げられていく。そして、目まぐるしく隊形変化すると、「師子王」の人文字が描かれ、更に「祝渡米」の文字が、鮮やかにフィールドいっぱいに描き出された。
 九日後に迫った、伸一の北・南米訪問への、青年たちの真心の祝福であった。
 会場は、いつまでも盛んな拍手に包まれた。
 参加者は、世界への広宣流布の夜明けを告げる伸一の平和への旅が、今、始まろうとしていることをひしひしと感じるのであった。
 伸一は、その人文字をじっと見ていた。青年たちの未来と恩師のことを思いながら──。
41  錬磨(41)
 体育大会は昼休みをはさんで、リレーなどの各種競技や婦人部二千人の舞踊、女子部のダンス「若い力」などが続けられた。
 競技の結果は、男子部は文京支部が、女子部は横須賀支部が優勝を飾った。
 表彰が終わり、最後に、会長山本伸一が演壇に上がった。彼は、青年たちへの敬意と期待を込めて、語り始めた。
 「口で平和を論じ、幸福を論ずることは容易であります。しかし、仏法という生命の大哲理のもとに、現実に自身の幸福を打ち立てながら、友も、社会も、国も、人類も幸福にしている団体は、我が創価学会以外に断じてありません。
 恩師は″青年は国の柱である″と言われ、心から青年に期待をかけておられました。日本の現状を思う時、真実の柱となって日本を救うのは、日蓮大聖人の仏法を、慈悲の哲理を奉持した創価学会青年部以外にないと断言しておきたい。
 私は約十年間にわたって恩師戸田先生に仕え、広宣流布の精神と原理と構想とを教えていただき、広布のバトンを受け継ぎました。
 私は戸田先生の弟子として、その″魂のバトン″を手に、人類の幸福と平和のために、力の続く限り走り抜いてまいる決心でございます。そして、私が『広宣流布の総仕上げを頼むぞ』と、最後にそのバトンを託すのは、ほかならぬ青年部の諸君であります。
 私は、皆さんが東洋へ、世界へと、広布の走者として走りゆくために、先駆となって、道を切り開いていく決心です。
 願わくは、私の意志を受け継ぎ、生涯、人々の幸福のため、平和のために生き抜いていただきたい。
 また、各家庭にあっては両親を大切にし、社会にあっては職場の第一人者となり、支部にあっては年配の方々を優しく包み、周囲の誰からも信頼される青年に育っていただきたいのであります。
 諸君が、日本、東洋、全世界の人々の依怙依託となられんことを心から念願して、あいさつに代える次第でございます」
 すべて伸一の率直な真情であった。短いあいさつを終えると、爆発的な拍手が起こった。
 彼は、ふとスタンドの彼方を見上げた。青空に鳩の群れが舞っていた。
 空に道は見えない。しかし、空を行く鳥はそれを知っている。
 伸一の目には、未来へと伸びる広宣流布の一本の道が、金色の光を放って輝くのが見えた。

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