Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

第4章 思い出をつくろう  

「21世紀への母と子を語る」(池田大作全集第62巻)

前後
7  未来部担当者の努力に感謝
 大曽根 夏休みの期間、学会では「未来部躍進月間」と銘打ち、青年部を中心とした未来部担当者が、各家庭のお子さんに深くかかわり、高等部・中等部・少年少女部員を励ましてくださいます。
 各会館で「未来部塾」を開き、お兄さんやお姉さんが勉強を教えてくれたり、みんなで合唱をするなど、楽しい催しもあります。
 親としては、本当にありがたいかぎりです。
 池田 学会の未来部担当者の皆さんは、本当に尊い方々です。私は合掌して、最大に賛嘆したい。
 大曽根 先生は、そうした未来部担当者の皆さんを「二十一世紀使命会」と名づけてくださり、また、ある時は和歌も贈ってくださいました。
  陸続と
    俊英育てむ
      君たちの
    責務と行動
      三世に輝け
 皆、大きな誇りを感じ、喜びに燃えて、二十一世紀の宝を育んでいます。
 勝本 一九九七年、大阪市の小学五年生の少女が、小学生文化新聞主催の「作文コンクール」で優秀賞に輝きました。
 彼女は、少年少女部の合唱団の一員です。作文には、未来部担当者である合唱団の団長との心温まる交流が描かれています。
 題名は、「清団長、ありがとう」。
 ――少女は、小学校三年生の時に、学会の大正区少年少女合唱団に入団します。
 そこで、清富一さんというすばらしい男子部の方に出会います。
 少女は、清団長のことを、作文に、こう綴っています。少々、長いですが、そのまま紹介させていただきます。
 「清団長は、ひとみがいつもキラキラかがやいて、元気いっぱいです。練習のときは、笑顔でやさしく教えてくれます。しかし、信心のことや池田先生のことになると、体中で話をするのです。
 また、練習日ていをワープロでうち、それを夜中に、団員全員のポストに入れてくれるのです。また、なかなか練習日がとれない時は、カセットテープに練習曲を入れて、これも一人一人にわたしてくれました」
 「うれしいできごとを清団長に話すと、自分のことのように喜んでくれて、それをみんなの前で発表してくれました。反対につらかったことを話すと、なみだをうかべて、『がんばるんやで』と、あたたかくはげましてくれました。清団長はとても心のきれいな人だなあと思いました。
 私は、合唱団の練習が楽しみで、休まずに参加しました。そのおかげで、ごん行ができるようになり、学会のことや池田先生のすばらしさを教えていただきました」
 大曽根 清団長の温かい人柄と、その人柄を慕う亜希子さんの心が伝わってきますね。
8  子どもの心に輝く担当者の思い出
 勝本 少女が四年生の秋、信じられないことが起こります。
 清団長が仕事中、交通事故に遭い、亡くなられてしまったのです。
 「うそや! 絶対にうそや!」。少女は、とても信じられませんでした。
 その夜、清団長に会いに行きます。清団長の顔は、とてもきれいで、笑っているようでした。
 合唱団の担当者の人が、少女に言いました。
 「清団長は、もう、いないけれども、“ぼくの分まで強く生きるんだよ! 池田先生の弟子として、立派な人材に成長するんだよ!”とみんなを応えんしていますよ」
 悲しみを乗り越えて、少女は強く、強く決意します。
 「そうだ。清団長が亡くなったことは悲しいけれど、清団長が教えてくれたことをしっかり守っていこう。清団長の分まで信心をがんばろう」
 作文の最後に、こう書いています。
 「私は、清団長のことは、絶対に忘れません。これからもずっと見守っていてくださいね。清団長ありがとうございました」
 この合唱団に、先生は、「新世紀フロンティア合唱団」と名前をつけてくださいました。
 池田 私も追善のお題目をあげさせていただきました。
 清さんは、若くして亡くなった。しかし、宿命転換の仏法です。その生命は、妙法に照らして、三世にわたって栄光につつまれてゆくことは、絶対に間違いない。また、仏法の眼から見れば、すぐに健康な生命になり、広布のために生まれてきます。
 何より清さんの思い出は、後継の友の中に生きている。人々のため、広布のために働いた清さんの人生は、少年少女たちの心に鮮烈に刻まれ、思い出は、時を経ても輝いていくことでしょう。
 今の世の中は、皆、自分のことで精いっぱいだ。エゴの社会であり、他人のことにはかかわらない無関心の風潮が強い。
 そんななか、「二十一世紀使命会」の方々は、忙しい時間をやりくりしながら、地域の子どもたちのために尽くしてくださる。
 普通ならば考えられないことです。社会を蘇生させ、未来を築いている崇高な方々です。
 こうした市井の功労者をこそ、社会は顕彰していくべきなのです。
 大曽根 本当に、そう思います。
 子どもの生命は、純白のカンバスのようなものですから、どんな人や出来事に触れるかがとても大切だと思います。
 善も悪も、見るもの、聞くもの、出会い、すべてが生命に刻まれていくのですから。
 勝本 これまで池田先生は、「小学生文化新聞」にさまざまな創作童話を連載してくださいました。
 先生の童話は、本当に、子どもたちの生命に深く刻まれています。夢やロマンが、大きくふくらんでいきます。
 池田 少年少女たちの豊かな生命の大地を耕し、「希望の種」を植えてあげたい――その、せめてもの思いから童話を綴っているのです。
 大曽根 先生の創作童話は、日本のみならず、世界各地、十言語以上に翻訳されています。
 香港やマカオでは、アニメ化されてテレビでも放映されています。
 アメリカの『児童文学作家人名録』には、三ページにわたり先生のことが紹介され、「困難に直面した時の希望と忍耐の大切さを表している」と評しています。
 とくに海外では、世界的な童画家のブライアン・ワイルドスミス氏が絵を描いた、池田先生の絵本が好評を博しています。
 その一冊『さくらの木』をアメリカの書評は、こう評しています。
 「両著者は、思いやりの心が必ず報われることについての、愛情のこもった物語を発表している。池田氏はその穏やかな文章の中に、主人公の子どもたちに見られるような無垢な心と好奇心を吹き込んでいる。同氏のメッセージは、お説教調のものではなく、本質的なことを伝える」
9  人間の子どもを救うための動物の会議
 池田 過分な評価に恐縮します。世界各国の子どもたちが、私の物語をとおして、何らかの希望や勇気をくみとってくれれば、これほどうれしいことはない。
 ワイルドスミス氏に、「子どもが心の奥底で求めているのは何でしょうか」と聞いた時、氏は即座に「それは、幸福です」と答えられた。忘れられない言葉です。
 童話といえば、ドイツのエーリヒ・ケストナーに、『動物会議』という有名な小説があるのを知っているだろうか。
 勝本 ケストナーといえば、大変に有名な児童文学作家ですね。
 池田 そのとおりです。『動物会議』は、第二次世界大戦直後に書かれた作品です。(高橋健二訳、『ケストナー少年文学全集』岩波書店、参照)
 ――人間たちが、たくさんの国に分かれ、戦争を繰り返している。戦乱のなかで親やきょうだいを失い、飢え苦しむ子どもたち。
 「これでは人間の子どもが、あまりにもかわいそうだ」と、動物たちが警告するが、人間は、何十回も会議を繰り返しているばかりで、埒があきません。動物たちは、人間の子どもを救うため、初めての「会議」を開きます。世界中から動物の代表が集まってくる。
 大曽根 全世界の動物が集まるというのは壮観ですね。夢にあふれた、子どもたちが喜びそうな光景です。
 池田 「国境をなくそう!」との動物たちの呼びかけを、人間の政治家は、はねつける。
 とうとう動物たちは、非常手段に出ます。
 「役に立たない両親からは親の資格をとりあげてよい」という人間の法律に従って、大人たちから、その資格を取り上げてしまうのです。すべての人間の子どもを一晩、自分たちの所に隠してしまった。
 子どものいない、物音ひとつしない世界で、途方にくれて悲しみに沈む大人たち。
 動物代表である、象のオスカールが人間全体に演説をする。
 「われわれの忍耐はつきた。われわれは、きみたちの子どもらを愛し、その将来を心にかけているのに、きみたちの政府は、きみたちの子どもらとその将来を、くりかえし、けんかや、戦争や、わるだくみや、欲ばりによって、危険にさらし、破壊している」
 勝本 鋭い言葉です。大人たちは、子どもを失って初めて、自分たちの愚かさに気づいたのですね。
 池田 子どものいない淋しさ。耐えられない苦しみです。とうとう大人たちは、動物たちの要求をのみ、地球から国境をなくす条約にサインします。そして、子どもたちは、それぞれの親のもとに帰ってくるのです。
 条約の最後の条文には、こうある。
 「子どもをほんとうの人間に教育する任務は、いちばん高い、いちばん重い任務である。真の教育の目的は、悪いことをだらだらと続ける心を許さない、ということでなければならない!」(同前)
 大曽根 教訓に満ちたお話ですね。真剣に胸に刻みつけなければならない言葉だと感じました。
10  「子どもたちのために!」と大人は団結を
 勝本 今、無邪気に遊ぶ子どもたちの姿を見て、その未来に思いをはせる時、いても立ってもいられないような気持ちになることがあります。
 先生が以前、教えてくださった牧口先生の叫びが胸に迫ってきます。
 「入学難、試験地獄、就職難等で一千万の児童や生徒が修羅の巷に喘いで居る現代の悩みを、次代に持越させたくないと思ふと、心は狂せんばかりで、区々たる(つまらない)毀誉褒財の如きは余の眼中にはない」(「緒言」、『創価教育学体系』第一巻所収)と。
 池田 牧口先生の、子どもを思う痛切なまでの愛情に心が打たれるね。「動物会議」の会場には、一つのスローガンが掲げられていました。
 それは、「子どもたちのために!」の一言だった。
 「子どもたちのために!」――すべての「母」の決意です。
 「子どもたちのために!」――この気持ちで、私も走っています。
 「子どもたちのために!」――この一点で、心ある大人たちは団結しなくてはいけない。
 手遅れになってはいけない。
 「われわれの社会は、子どもを可愛がりはしても、まだ十分に愛してはいない」――初めに紹介したチェコのマサリク大統領の言葉です。
 「悪いことをだらだらと続ける心を許さない!」と、立ち上がる時です。
 現代に生きる、すべての大人たちが、子どもに対する責任があるのですから。

1
7