Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

ソローの不滅の声 正義に生きよ 宇宙の法則を進め

2001.5.4 随筆 新・人間革命4 (池田大作全集第132巻)

前後
4  ソローの思想は、後に、ロシアの大文豪トルストイの心を激しく揺さぶった。
 インドの大英雄マハトマ・ガンジーは、ソローの書を携えながら、非暴力の闘争を展開した。ヨーロッパでナチスに挑んだ闘士たちも、さらに、アメリカ公民権運動のキング博士も、ソローの著作から啓発を受けた。
 女性の海洋生物学者レイチェル・カーソンを筆頭とする二十世紀の環境運動にあっても、ソローの自然観や生命観、そして悪との妥協を許さぬ強靭さが、計り知れない支えとなってきた。
 ソローが池に投じた一石の波紋は、不滅の声となり、地球を一巡する民衆革命の雄大なる連鎖を描いたのである。
5  エマソンとソローの師弟が編集に携わった雑誌『ダイアル』(一八四四年一月号)法華経の薬草喩品の英訳が掲載された。
 これはフランス語訳から重訳したもので、世界初の法華経の英訳となるといわれる。その翻訳者は、ソローであったという説もある。薬草喩品は、「衆生の多様性」と「分け隔てのない慈悲」を高らかに謳い上げた一章である。
 師エマソンは、弟子ソローにとって故郷の山河は、一つの生命であり、鳥や獣も、魚や昆虫も皆、「おなじ町の住民であり同胞」(『エマソン論文集』下、酒本雅之訳、岩波文庫)であったと評した。
 ソローは、生きとし生けるもの、すべてが支え合ぃ、調和していると見た。森羅万象を貫いて働く、その生命の法則を確かに直観していた。ゆえに、彼は、矛盾に満ちた現実社会にあっても、「より高き法則」に融合して、泥中に咲く蓮華のごとく生き抜かんとした。
 また、だからこそ、国家の権力に対して、一歩も退かぬ自負を持ち得たのであろう。
 ソローは、民主制に進んできた歴史の歩みを、「個人に対する真の尊敬に向かっての進歩」(前掲『市民の反抗』)と、鋭く接した。
 一個の人間の生命が、いかに偉大であり、尊貴な存在であるか。その真実を歌った壮麗な生命讃歌こそ、エマソンもソローも結縁した法華経なのである。
6  一八六二年の五月六日の朝。ソローは結核のため、四十四歳の若さで逝去した。
 常に青年の輪に飛び込み、闊達な対話を繰り広げる人間教育者であった。地域に根ざしつつ、世界の賢人を教授に招き、幅広い見識の人材を育む教養大学を希求していたのも、ソローである。
 この五月三日に開学を見たアメリカ創価大学は、四指針を高らかに掲げた。
 一、「文化主義」の地域の指導者育成。
 一、「人間主義」の社会の指導者育成。
 一、「平和主義」の世界の指導者育成。
 一、自然と人間の共生の指導者育成。
 このアメリカ創価大学から、二十一世紀のエマソンやソローも陸続と躍り出で、世界市民の創造と友情の、ネットワークを縦横無尽に広げゆくことを、私は信ずる。
 「人間教育」という普遍の大道を、私たちはソローのごとく、爽快な朝の光を浴びながら、快活に歩み続けていきたい。
7  ソローは毅然と言った。
 「今は休息の時ではない」「生命を救いたいのなら、闘わねばならない」(『マサチューセッツ州における奴隷制度』木村晴子訳、アメリカ古典文庫『H・D・ソロー』研究社)
 五月の三日は、我らにとって、宇宙の元初の大法則とともに、永遠に新たな正義の戦闘を開始しゆく日である。

1
4